豊島逸夫の手帖

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飛翔体上空通過程度では地政学的要因とはならず

2009年4月6日

仕事がら数々の地政学的要因に接してきたが、今回の日本の騒ぎ方そして情報伝達の狼狽振りを見るに、この国はやはり平和ボケしていたのだなと改めて痛感。市役所内で連絡FAXを持った係員が駆け回り、受け取った部長さんがおもむろに声明を読み上げる時は、すでにミサイルは通過。こんな風景がメディアで報道されるのも日本ならではの現象である。それをニュースショーで芸能タレントがコメントするのも、まず他国ではあり得ないことだ。

国際市場で地政学的要因と言えば、中東のように予告など全く無しに実際にミサイルが領土内に打ち込まれ死傷者が多数出るケースである。それでさえ最近はマーケットの感覚が麻痺しているので、まずまともに反応することはない。有事の金と言っても、近年は経済有事に市場の関心は集中している。そもそも有事の金で仮に価格が上がっても、それは一過性である。本欄の読者の皆さんには、まさか今回、有事の金などと囃し囃される方々はおられないと思うが。

まぁ、敢えて言えば、今回の一件は国際感覚が欠如している日本人に、アジアの中の日本の厳しい現実を、ウムを言わせず突きつけたということかな。

さて、先週金曜の(毎度お騒がせの)米雇用統計は、新規雇用者数(前月比)66万人減、失業率8.5%。それでもマーケットがそれほど反応しなかったのは、地政学的要因同様、感覚が麻痺しているから。"市場は冷静に受け止め"という見出しがあったが、"市場は無力感"というほうが現実に近い。不況が始まってすでに500万人以上が失業、という深い傷が治癒するのにどれほど時間がかかることか。

マーケットは、less bad=悪化のペースが緩んだとか、end of fear trade=恐怖心理が支配する地合いは終わったという理解で、当面の安心感が拡がり、超大型財政出動と金融安定化のための超大型資金投入のカンフル剤効果を当て込んでいる。しかし、その割にVIX指数は、40以上の高水準から下がらず。今月中には米大手19行のストレステストの結果が明らかになる。今週から米主要企業業績発表が続く。GM破綻の発表ともなれば、そのインパクトは北朝鮮ミサイル問題の比ではない。それでも、この一ヶ月でNY株はSP500が22%上昇して、実に1938年以来の上げ幅。これはやはりカンフル剤を当て込んだ相場であろう。

株が反騰すると、"安全資産"としての円と金が売られる、というのも最近の特徴。"安全資産"という言葉の危うさは本欄で何回も繰り返してきたが、相変わらずメディアには、この言葉が流れる。それにしても円が安全資産と言われてもねぇ...。

G-20の評価も週末いろいろ拾い読みしてみたが、結局オバマのデビューと 主要国の新春顔見世興業的意味合い以上の新鮮味はなかった。ブレトンウッズのような国際経済システムを変えるような議論にはならず。

金価格は900ドル割れ。800ドル台になると、これまで金価格には素っ気なかった筆者の目も徐々にぎらついてくる。前回の900ドル割れは880ドルまで下がったところで、バーナンキのFRB米国債買い切り発表で、一気に950ドルまで急反発した。今回は、ジワジワと下値を切り下げている状況である。FRBの資金ジャブジャブ作戦という窮余の策の後遺症が出るには、まだ時間がかかる。どこまで下押すか。筆者は、900ドル以上では釘刺し役に廻ることが多かったが、800ドル台になれば、徐々にではあるが強気になってくる。

さて、今日の午後3:30からテレビ東京系のニュースFINEに生出演予定だが、北朝鮮特集で飛ぶかも、というディレクター氏の話であった。

2009年