豊島逸夫の手帖

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Less worse (悪さ加減が改善)

2009年4月10日

欧米市場がイースター休暇入りで、マーケットも完全お休みモード。来週初めまで、日々の価格変動に全く意味はない。筆者にしても深夜のNYとの電話会議から解放され、久しぶりに熟睡(爆睡??)できる貴重な時期だ。こういうときこそ"虫の目"を捨て、"魚の目""鳥の目"で、マーケット全体を俯瞰できる時期だと思う。

そこで、最近のマーケットのキーワード(NYの連中と話していて頻繁に出る言葉)が、less bad, less worse だ。株式は反騰したが、これで本当にbetter=良くなったかと言えば、いやいや、less bad, less worseというところ、という答えである。諸々の経済統計にしても、今週から発表が続く企業業績にしても、悪化のペースが鈍化したとか、もっと悪いかと身構えていたのだが、思ったほど悪くなかった、というわけである。少なくともworst=最悪は脱した(と信じたい)というのが、証券系アナリストのポジショントーク。それに対して、いやいや、GM破たんの可能性など、まだまだ気を抜けませんよ、という議論が現場では満ち満ちている。

もう一つのキーワードがリフレ相場。未曽有の財政出動や金融安定化のための資金投入で、まずは心筋梗塞を起こして危篤状態であった心臓を、電気ショック療法で再生することが政策上の最優先課題となっている。その効果で、見かけの景気はとりあえず改善するであろう。そうなれば株も商品もリフレ効果の恩恵に預かれるから、反騰するのも当然である。しかし、その持続性となると全く別問題。カンフル剤の効果が切れれば、less worse(悪化改善傾向)が、単なるworse(悪化)に転じてしまう。

貴金属市場でもリフレ相場の典型的症状が顕著である。プラチナが1200ドルへ急騰。金は900ドル割れ。金融危機に一服感が出れば、"逃避資産"として買われていた金は売られ、対して、実体経済改善の恩恵を受ける産業用メタルのプラチナは買われる。2週間ほど前の日経のプラチナ記事で、筆者は"主要国の数十兆円規模の財政出動でプラチナが恩恵を受けないはずはない"とコメントした。実際、プラチナはリフレ相場を映す鏡と言えると思う。ただ、そのコメントした後でプラチナがETF組成などによる投資マネー導入を囃し1200ドルまで急騰すると、今度は金融危機再燃の場合のショック(失望売り)が懸念される。

一方、金の方はと見れば、リフレ相場は宝飾需要とか工業用需要を引き上げる効果はあるが、金融危機プレミアムが剥落することのほうが相対的な影響が大きい。しかし、金融危機が再燃すれば、これまた売られ過ぎの反動で急反騰するであろう。

その中間のシナリオが、景気に多少改善傾向が見えても、基本的には、ずるずると低空飛行を続けるケース。"失われた10年"型の展開である。こうなると株も商品もダメ。Lose - loseのパターンになってしまう。信用収縮が再び顕著になり、マクロ経済は縮小均衡への動きを加速させる。近隣窮乏化政策による保護主義も当然強まろう。

こう考えると、まず2009年は、個人投資家もあまりポジショントークのコメントには乗らず、大きなポジションは取らないことが、まずは重要だろう。やるとしても小額をマメに動かす以外に勝ち目は薄い。これ、あくまでもリスク張らずには生きられないというリスク依存症にとりつかれた短期投資家向けの話だよ。どっしり長期に構えられる人は、めったなことには動ぜず、投資に割く時間があるなら、人生を楽しんだ方がよろしい。2009年は、まだまだ第一ラウンドが終わったばかり。完投ペースを考えて、エネルギー配分を重視しましょう。マーケットのストレスに365日耐えられる人間は稀有の存在なのだから。

2009年