豊島逸夫の手帖

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インド株 ストップ高

2009年5月19日

米国の経済チャンネル見ていたら、珍しくインド情勢(総選挙で国民会議派が大勝利)がニュースとなり、インド株が急騰して午前中で取引終了という異例の事態になったことを伝えていた。

本欄4月22日付け"インドと南アの政情不安定"で述べたが、先月から1ヶ月かけた長丁場のインドの総選挙が実施されていたが、ようやくその結果が出て、事前予想を大幅に上回り与党の地すべり的勝利となったのだ。

インドといえば、細分化された民族構造で、宗教的にはヒンズー、イスラム、シク、キリストに分かれ、カースト間の溝もまだ埋まらない。総選挙のたびに新たな連立政権が誕生というパターンを繰り返してきたので 国家政策に戦略的一貫性を欠き、中国に比しインフラ整備に遅れをとったことで、ここにきて世界同時不況に対する耐性の脆さを暴露していた。

今回の総選挙も、混沌とした政局の中で新たな波乱が予想されていただけに、同一与党が再選されるという1977年以来の"珍事"は、マーケットにとってもポジティブ(良い)サプライズとなった。これでインフラ整備の面で民営化が進み、教育改革、過剰な助成金に象徴される財政規律の改善、パキスタンとの外交的雪解けなど"安定化"への期待が一気に膨らんでいる。

現地財界も、世界同時不況の中での政権安定は大歓迎。とくに立ち遅れている製造業への財政出動、銀行、保険、年金制度の改革が前進するという観測が浮上してきた。そして国民会議派の核となる、ネール、ガンディー閥は、とくにソニア・ガンディーとその息子の求心力を改めて見せつけたカタチだ。

さらに今回注目されるのは、政局不安定に嫌気して遊離していた上層階級と中産階級のカーストが、政治の世界に戻ってきたことだあろう。一方で先鋭化していた一部低層階級のカーストが率いる政党の敗北も、安定化に向けての象徴的出来事とされる。

ただし、新興国株式は、すでにかなり買い進まれていたので、高値警戒感は強い。金市場に関しては、湿っていた消費者心理が向上すれば、急減しているインド金需要に対してポジティブな刺激効果となろう。なにせ、1-4月の低迷が続けば、金需要世界一の座を中国に譲りかねないほどの落ち込みだから。

次の話題は、米銀ストレステスト(資産査定)の、その後。読者からも、この結果で安心できるの? という質問というか疑問が多い。この点に関して、ロンドン・エコノミスト誌は、America's stress tests were too easy. 一言で"甘い"と断じている。

何が甘いかと言えば、まず前提となっている経済見通しが楽観的すぎるということ。そして、今後2年間の米銀損失額60兆円相当という推計が信頼できたとしても、それに対する資本の備えが不十分という。ストレステストで合格ラインとされる自己資本比率(リスク加重)4%も、IMFや欧州の6-8%に比し甘い。

マーケットの評価も正直なもので、バンカメやモルガンスタンレーが発行した債券(国の保証無し)は、国債に比し4-5%も高い金利となっている。優良行とされるJPモルガンチェイスの債券でさえ、同様のスプレッドが3%である。要は、米銀が、国の保証なしで、いわば松葉杖無しで一人歩きできるようになるかどうかは、まだ要経過観察ということだ。

この記事の見出しにもなっている言葉なのだが、hospital pass=診察券がまだ必要とされる通院患者、という見立てである。NY金融株上昇も、快気祝いの前祝程度ではなかろうか。ゴールドマン、モルスタ、JPモルガンは診察券返上ということだが、他の患者の健康状態には、かなりバラつきもあり要通院である。株式市場は前祝モードだが、債券市場は冷静に病状の経過観察モードのようだ。

最後に金の世界から読むと、今年に入ってからも、とくに欧州での金需要が急増している。これからいよいよ欧州でもストレステスト実施ということなのだが、その結果や実名は公表しないそうである。これではマーケットの疑心暗鬼は募るばかり。その不安感(リスクプレミアム)を金需要は素直に映しているといえる。

世界最大の金需要国インド経済の見通しが明るくなれば、金には買い材料。一方で欧州経済の見通しが仮に明るくなれば、これは金には売り材料となろう。新興国経済は好転がプラスになり、先進国では暗転がプラスになる、というのが現在の金市場の反応である。

こちらも、気候不順で体調崩しがちな5月は、要経過観察モード。

2009年