豊島逸夫の手帖

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バーナンキの綱渡り

2009年6月24日

どう見ても無理筋である。今夜のFOMC声明文の書き方をバーナンキの立場になって考えたのだが。

債券市場には"大丈夫。インフレ懸念が強まる前に、市場に大量供給した流動性(ドル)を首尾よく吸い上げてみせるぜ。市中の銀行に滞留しているおカネをFRBの口座に預けるインセンティブとして、それなりの金利をつけるからさ。"と安心感を与えねばならぬ。

株式市場には"大丈夫。足元のデフレ基調から脱するために、金融緩和は当面続けるからさ。市場が出口戦略と騒ぎ始めているけど、それを気にして利上げの可能性を仄めかすようなマネはしないから。"と安心感を与えねばならぬ。

外為市場には"大丈夫。大量発行される国債の消化不良で、悪い長期金利上昇が起こりドルが売られないように、FRBの国債買取は続行するから。ドルという通貨の番人としての役目は、きっちり果たすぜ"と安心感を与えねばならぬ。

そこで金市場の反応は"そんな全ての市場の不安を解消するような妙案があるわけないじゃん。FOMC声明文で moderate=緩やかなとか、somewhat=若干とか、様々な形容詞や副詞を駆使して行間にニュアンスを滲ませても、政治的に見れば、実体経済悪化の渦中にマネージャブジャブ作戦の打ち切りなど通るはずもなかろう。"

かくしてFOMCを巡る思惑が各マーケットを巡る。

それにしても、誰が"利上げ"などと唐突に言い出したのか。魔女狩りしても、依然出所が分からん。おそらく、株、債券をショート(空売り)している仕手筋が流したのだろうけどね。市場が"出口戦略発動"を気にし始めた矢先だったので、これは効いた。

今日のところは、all eyes on FOMC statement=全ての目はFOMC声明文の中味に。

商品全体も金も、先行した投機買いが結果的に高値掴みになりそうで、蓄積された買いポジションがしこっている。いわゆる戻り売りの様相だ。とくに金は950ドル水準で買った連中が、反騰すれば、ヤレヤレと売り手仕舞ってくるだろう。NY先物では、まだ100トンくらいは売り余地が残ると見る。そこを虎視眈々と狙っているのがアジア中東のバーゲンハンターと欧米の年金基金という長期買いの常連である。国内では海外金安に円高のダブルで下がっているので、こういうタイミングは買いやすい。

FOMC声明を読む"英文解釈相場"の中で、"この一節は利上げ示唆と読める"などと、どこかの投機筋が囃せば、金は一段安になって長期的買い場になるのだけどね。トレーダーにも英文科出身が登用されそうな時代になった。

2009年