豊島逸夫の手帖

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来ました、来ました。

2009年7月9日

しばらく、あまり書く気も起こらないようなマーケットの地合いであったが、やっと来ましたよ、金にも下げが。海外金安と円高の同時進行で、久しぶりに、すっきりと"買い"の話ができるね。

マーケット全体にリスクマネーが戻ったと言われた矢先に、またもや積乱雲がモクモク出始めて、リスクマネーもどうしたものか逡巡している様相だ。経済全般にless bad=悪さ加減が改善、と言われたのが、bad is bad=悪いものはやっぱり悪いや、ということになった。NY株も、green shoots (希望の芽)から、green shorts(新たな空売り)と言われるような塩梅だ。

つい最近SP500が200日移動平均線を上回ったと囃されたが、昨晩は、また下回っちゃった、と盛り下がっている。救いは、10年もの米国債の入札結果が良かったことかな。

NY株はALCOAを皮切りに恒例のearnings season=業績相場入り。とはいっても、企業業績が仮に改善されても、コストカットとかリストラによる改善なので、結局、マクロ的に失業は増える。ここでも縮小均衡なのだね。

失業が増えるから、追加的財政支援を求める声は強まり、それを賄うための国債発行増額=FRB国債買取も増額=通貨増発という堂々巡りで、長期的にはデフレの彼方にインフレの積乱雲がモコモコと見える。

さて、金価格の下落だが、今週はNY先物買いの売り手仕舞いが目立つ。おそらく今週、来週発表の買い残高は減っていると思う。リスクマネー後退の兆候である。CFTC(米商品先物取引委員会)による原油先物規制の話も効いている。その原油が急落したことで金も連れ安という面もある。

マネーとしての金を見れば、ドル高で売られている。アレッ?円高ドル安じゃないの?と言う声も聞こえてくるが、欧米金市場がドル安ドル高のベンチマークとして注目しているのは、もっぱらドルユーロである。そこではユーロ安、ドル高(1.38)傾向なのだ。

それから筆者が気になっているのが、インドの金需要減少に歯止めがかからないこと。1-6月の金輸入は過去10年間の平均値で見れば8割減近い60トン前後。もし通年で120トンということになれば年間で400-500トンの需要減になるから、これはかなりのマイナス要因になる。まぁ、このままおいそれと引き下がるインドとも思えないが。

さらに追い討ちをかけるように、インド政府は金銀の輸入税を倍に引き上げ。金地金、金貨に対しての関税を10グラムあたり200ルピー(400円弱)とした。その背景には、インドも財政出動する結果、財政赤字がGDP比で6.2%から6.8%に上昇するという事情がある。インド株も5%以上急落した。なお、この問題の背景については、著書"金を通して世界を読む"187ページのインドについての章、"もしサプライズがあるとすれば、金輸入停止などの緊急措置"というくだりを参照。

ということで、金はレンジを下放れ、下値模索へ。筆者のスタンスは変わらず。NY先物の売り手仕舞いはまだ続き、900ドル割れたくらいから新興国需要が復活すると見る。

冒頭に述べたように円が急騰しているので、円建て金価格には割安感あり。長期保有であれば、強気になれる。"金の輝きが失せた"と言われ始めれば、いよいよ買いのチャンスである。

最後に、セントルイス連銀のHPで見つけたFRBマネタリーベース急増のグラフを紹介しておく。(http://research.stlouisfed.org/fred2/series/BASE)。どうみても尋常の通貨供給増加ではないね。

2009年