豊島逸夫の手帖

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日本の総選挙より上海株急落を材料視

2009年9月1日

週明けのNY株式市場では、日本の総選挙は殆ど材料視されず、もっぱら上海株急落に注目が集まった。ジャパン・パッシングを痛感させられる。27日付け本欄「日本の総選挙に対するマーケットの反応」に書いたとおり、日本株は せいぜいトレーディング(短期売買)の対象に過ぎず、長期保有する意欲は見られない。欧米の大手投資銀行では、アジア部門がAsia except Japan(日本を除くアジア)とJapan(日本)の二部門に分かれていた処が多かったが、近年は後者が前者に吸収され、香港やシンガポールのアジア拠点の傘下に下る傾向が強まっている。日本株アナリストの社内的地位も長期低落傾向だ。これからは日本株も「内需」依存(国内投資家依存)型に転換せねばなるまい。

今回のDPJ(民主党)圧勝、政権交代も話題性はあるが、寄異の目で見られ、So what?=だからどうした?という受け止め方である。日本のメディア報道が過熱気味だけに、外の冷めた反応が際立つ。

さて、上海株のほうだが、今の中国経済の根源的問題は外需(輸出)依存型から内需主導型への転換は見られるものの、その内需の内訳がいびつなことだ。つまり肝心の個人消費は1990年の49%(GDP比)から35%(2008年)にまで低下しているのだ。アジアの他国では、この消費比率が50-60%。米国では70%に達する。逆に、企業設備投資は35%から44%に増加基調である。今年の超大型財政出動もインフラ投資が中心で、ますまう企業投資部門が増えることは間違いない。

中国の消費不足の根源的要因については本欄でも何回か書いたが、年金、医療などの社会的セフティーネットが不完全なので貯蓄性向が高まるわけだ。家計貯蓄率もこの10年で20%から28%にまで増加している。加えて、労働者に対する所得配分が薄くなる傾向もある。

資本集約的第一次産業が成長したが、労働集約的第三次産業が遅れているからだ。前者の代表格の製造業の多くは国営企業であり、株式配当の必要がないという事情もある。ここに産業構造改革の必要性がある。

さらに、貯蓄過多の要因として、企業部門の「貯蓄」も無視できない。要は過剰な低利の銀行融資の結果、資金がだぶついているわけだ。その一部が上海株式市場に流入し、過剰流動性となって暴れてきた。為替の面でも、人民元が高くなれば、輸入品価格が安くなり、中国人の個人購買力が増える。

ところが、人民元完全自由化の流れも2005年から2009年初までは人民元の実質価値28%上昇を許容したものの、その後は輸出への悪影響を恐れ、人民元を再びドルにペッグ(固定)させる傾向が顕著だ。米国サイドも人民元高(ドル安)を声高に要求できなくなった。もちろん理由は米国債を売られては困るからだ。

結局、個人消費を高めるためには、複合的な経済構造改革と人民元の完全自由化が不可欠なのだが、この「経済自由化」に政府は及び腰である。他国に比し好調に見える中国経済だが、それはあくまで相対評価であり、中国株も安心して長期保有できる環境ではない。

2009年