豊島逸夫の手帖

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円独歩高 ― 財務相の決意を試すヘッジファンド

2009年9月28日

為替が固定相場制から変動相場制へ移行するとき、変動相場制の最大の問題として指摘されたことが、投機的売買に晒されるリスクであった。事実、1992年には、あのジョージ・ソロスが英ポンドに対して大量のカラ売りを浴びせ、15億ドルもの巨額の利を得た。1997年には、やはりヘッジファンドが、タイの通貨バーツに売り攻勢を仕掛け、アジア経済危機の発端となった。

そして、今、日本の財務相が為替不介入、円高容認を明言したことで為替投機筋が色めきたった。本気でそういうことを言っているのか、株価を間違いなく冷やす円高容認は、日本国民の支持を得たうえの措置なのか。マーケットは、どこまで日本国が円高容認、為替不介入を貫けるか、試してみようではないか ということで一斉に円を投機的に買い上げている。

このまま87円、さらに85円、そして80円になっても、円高容認維持、為替不介入を言い続けられるのか。こういうときには、徹底的に相場を叩くのがヘッジファンドの流儀である。財務相があのような発言をすれば、こうなることは見えているわけだが、果たして今の財務相はそこまで読めていたのか、はなはだ疑問である。要はマーケット感覚があれば、おいそれとは口にできない言葉なのだ。

一国の為替政策は、財政政策、金融政策と並び、重要な経済問題である。当然 大きな変更なり主張があればマニュフェストに明記されるべきであろう。しかし、民主党のマニュフェストに円高容認、為替不介入の文言は見当たらない。ということは、一財務相の決めた方針なのか。金融相の徳政令といい、どうも各大臣が言いたい放題で、政権全体の内部コントロールが効いていないような印象を受ける。国交相も色々青くなっていることだし、首相も外遊ばかりしている場合ではないと思うのだが...。

なお、純粋に国際経済の観点から議論すれば、日本国が率先して自国通貨高を容認する姿勢は美しい。今や、各国が競って自国通貨安による自国製品の国際競争力強化を狙う時代である。実質的為替切り下げ合戦は、ライバル国の輸出を奪う近隣窮乏化政策を意味する。多くの国が隣国を踏み台にして自国だけは生き残ろうという為替政策を採っている最中なだけに、日本だけが自国通貨高を容認するということは美しいのだ。他の先進諸国に先駆け温暖化ガス規制目標の数値を25%と打ち出した姿勢も、美しい。

問題は、カッコ良く振る舞うにはコストがかかることだ。このまま円独歩高が進行すれば、株式は間違いなく二番底に向かうだろう。景気への悪影響は計り知れない。それでも、世界経済不均衡是正という錦の御旗を、日本国が先頭切って振ろうという国民的決意があれば、筆者はそれも一国としてひとつの選択だと思う。目先2-3年、国内経済のどん底を耐える覚悟があれば、長期的には輸入品価格安という円高メリットも徐々に働き、内需主導の新たな日本経済のモデルが出来上がるかもしれない。でも、その間の参院選挙を民主党が勝ち続けるか否かには、大きな?が残るが...。

とにかく、我々日本人が選択した新政権は、為替市場に関する限り政策論議無しに大きな賭けに出ていることは間違いない。この機に乗じて、マーケットは財務相が白旗上げる(あるいは修正発言する)まで、投機的円買いを続けるであろう。さらに後の反動の円売りもドラマチックな規模になると思う。

さて、話は変わりますが、初級者向け本を書きました。小学館「30分で分かる」シリーズで、「3000円から始める金投資」という題です。明日発売。同時発売のシリーズは「ペット」「宝くじ」、そして自家菜園とかアグリビジネスで人気の「農業」だそうです。なんともユニークな組み合わせですね。このシリーズは、ファミリーマート500店舗、AM-PM100店舗でも販売されるそうです。金というトピックも、随分と普通の話題になったと感じます。

そういう企画ですから、当然、本の内容もホントに初級者向けです。
パート1 基礎知識編 金を巡る世界と日本の歴史
パート2 市場研究編 金の価格はこうして決まる
パート3 売買実践編 一から分かる金投資の始め方

とくにパート3では、金投資の8つの心得とか、筆者が実践する金投資のノウハウなど、実践的な内容になっています。筆者の相場観についても、大胆に(?)記しておきました。発売までに相場予測が外れるのではと、ヒヤヒヤでしたけど(笑)。

本文では「1000ドル近くまで達したところで、利益確定の売りに押され、いわゆる調整局面を迎えました。それでは、これからどうなるか。」と書いているので、まずまず発売当日の相場環境には適合した内容と言えるでしょう。ホッ...。

90ページほどで活字も大きく、定価も600円ですから、お手軽な本になっています。担当が週刊ポストの編集部なので、表紙はムック本の装丁で賑やかな言葉が並んでますけど。曰く「肉食系投資家に贈る草食系利殖術のススメ」。
コンビニでも販売されるとのことで、まぁ、出張や旅行の車中で読み切れる程度ということを特に意識しました。

ペットの育て方や野菜栽培のノウハウと同じように気軽に金について考えてみてください。

2009年