豊島逸夫の手帖

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VIX急騰 CIT破たん

2009年11月2日

再び、イヤーな感じである。日曜夜に、100年近くの歴史を誇る米ノンバンクのCITが6兆円規模の負債をかかえ破産法申請。米国史上5番目の倒産規模である。

事前調整型の破たんであり、先週金曜に著名投資家でCIT大株主のアイカーン氏が事前調整型を認める発言をした時点で、市場では予想された成り行きではあった。その先週金曜日のマーケットはNY株価急落し、VIX(別名、恐怖指数と言われるボラティリティー=価格変動率指数)が1日で23%もの急騰。3か月振りに30の大台をつけた。

それを受け、外為市場では、安全性を求める資金が避難通貨とされるドルと円に流入。このドル高がNY株価の売り材料となる、という正に負の連関である。(10月27日付け本欄で、ドル高が何故NY株安となるのかについては詳述した。)

金曜の株安には、期末要因もある。10月は投資信託の決済月、11月はヘッジファンドの決済月。しかし、前日の米国GDP3.5%成長の報で、あれほど盛り上がった市場で、24時間後に、そのセンチメントがかくも変わるものか。

そもそもVIXが急騰するということは、投資家が何かを恐れ不安に感じているからだ。その不安、恐怖とは何なのだろう。

―なんといっても、ウオール街と街中の景況感に対する認識のズレが顕著だ。NY株価は3月に大底打って以来50%以上戻し、ウオール街は息を吹き返した。ゴールドマンサックスのボーナスはなんと総額1兆円を超える。それに対して街中には失業者が溢れる。期待のクリスマス商戦も盛り上がらない。消費者は節約に走る。
企業のリストラやコストカットをテコに改善したバランスシートにより株価は上昇したが、それはあくまで「雇用なき回復」の域を出ない。NY株高も、もっぱらヘッジファンドなどプロの買いであり、個人投資家はほとんど乗れていない。

―金融不安は一段落と思っていたが、商業用不動産という未処理爆弾がまだ埋もれていた。その存在は以前から指摘されていたわけだが、ここにきて、そのヤバさが、ジワリと効いてきている。

―FRBの政策判断ミスの可能性が強まってきた。FRBは、ヤバい債券(住宅関連債券、そして長期的に最もヤバイ米国債)を買い取ることで、民のリスクを官が引き受ける緊急措置を続けてきた。その結果、FRBのバランスシートは異常に膨張し、官製ヘッジファンドの様相を呈する。10月で国債買い取り完了など、今後は、この生命維持装置とも言える緊急措置を徐々に外してゆくことになるわけだが、本当に外して大丈夫?患者の容体はホントにそれほどに回復したわけ?
生命維持装置を早く外し過ぎた経済がどのような道を辿るかは、「失われた10年」を経験している我々日本人が最も痛切に感じるところであろう。肝心のところで、当局の舵取りの一つの過ちが全国民に不幸を与える結果になる、というのが金融政策運営の怖いことろなのだよ。

―GDP3.5%の数字も内容が問題。自動車買い替え優遇措置(9月で終了)とか、一軒目住宅取得8000ドルの税制優遇措置(11月で切れるが延長の可能性も)、そして在庫補充投資など、一過性の要因ばかり。成長の8割近くが、一過性要因に支えられる構造なのだ。

そして今週は火曜と水曜はFOMC、金曜は雇用統計と、毎度お騒がせの二大イベントが相次ぐ重要な週。FOMCでは、10月27日付け本欄「英文解釈相場」で詳述したように、for an extended period=当初より長引く期間、という表現が盛り込まれるのか?
そうはならないと筆者は思うが、FOMC声明の文言に「利上げ」の匂いを感じるか否かでマーケットは大きく動くは必至。

雇用統計は、失業率9.9%で、いよいよ10%の大台に近づくであろう形勢である。皆さん、乱気流に備え、シートベルトは低くシッカリと締めましょうね。

金市場はややっこしい展開になっている。マーケットの不安は、本来、不安係数と言われる金価格には買い材料のはず。しかし、外為市場との市民ふれあい相互交流の場が増えてきたので、避難通貨、ドルと円が買われると、ドル高で海外金が売られ、円高で国内金はさらに下がるという、これも負の連関も見られるようになっている。

全般的にドル安に最も敏感に反応する金価格が、先行して史上最高値をつけたので頭が重くなっていることは事実。これまで驚異的なペースで膨張してきたNY金先物買い残高(ネット・ロング)も、ようやく頭打ちの兆し。先週、先安感強まる中で急騰局面もあったが、これはプロがショート(空売り)に走るなかで、逆を突かれ慌てて買い戻しに殺到した結果の現象。新規買いではない。11月は、そうでなくても毎年荒れる月。今年も例外ではなさそう。

筆者としては、年内にロンドン出張案件やらNY出張案件やら抱えているので、マーケットには、おとなしくしていて欲しいところだが、そうもゆくまいねぇ...。会う人ごとに、「やせたね。お身体を大切に。」と言われるけれど、とても太れる状況ではありませんです、はい。

2009年