豊島逸夫の手帖

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2010年マーケットを見る勘所

2009年11月13日

そろそろ、「2010年全市場予測」というような言葉が筆者の周辺にも飛び交うようになり、エエッ、もうそんな時期なの、というのが率直な反応。さてさて、来年はどうなるのか。

米国は中間選挙の年、日本は参院選挙の年。オバマもハトヤマもハネムーンは終わって選挙民から厳しい査定を受け、「政治家仕訳」が断行される年でもある。あんたはクビ! あんたは継続! 日本で事業仕訳が行われるのは体育館であるが、政治家仕訳が行われるのも体育館の投票所となる。そうなると経済の面では、政策運営に際して「仕訳人」たる国民の印象を良くせねば、というバイアスが殊更にかかる。より具体的には、景況感を悪化させるような利上げ=出口戦略などは後回しになる。それどころか、追加的景気刺激策、あるいは追加的量的緩和政策さえ出かねない。財政規律とか過剰流動性懸念などとかには構っておられぬ。米国では、10月で終了宣言されたFRBの国債買い取りの再復活さえ視野に入る。

そのような政治環境の中で、マーケットの先行きを占う最大のポイントが、有事対応から平時対応への出口戦略のタイミング、より具体的にはゼロ金利からの脱却、そして各国の利上げがいつになるか、ということではないか。

現状では、利上げ出来る国と、利上げ出来ない国の二組に分かれる。前者のグループは資源国、発展途上国。ところが、利上げに踏み切る余裕がある国の通貨は、金利差を追うドルキャリーのマネーによる投機的買いで急上昇してしまう。自国通貨が上昇すると、輸出産業が圧迫される。さらに海外マネーの急速な流入により、国内に過剰流動性は発生し、バブル的現象が起きる、などの副作用も懸念される。そこで、自国通貨売り、ドル買い介入に走る国や、資本流入を制限するための課税に踏み切る国などが出てくる。

前者の典型がルーブル。ロシア経済の危機的状況を嫌気して一時は暴落した通貨だが、原油高で息を吹き返し、今や当局がルーブル売り介入で投機マネーの流入によるルーブル高を抑えねばならぬほど。ホントにそんなにロシア経済のファンダメンタルズが好転したの?と問いたくなるが...。

後者の典型が、ブラジルの資本流入に対する2%の課税。これで慌てたのが、実は例のレアル建て投信を売りまくった日本の証券会社。ブラジルのオリンピックブームに乗って、さらに販売強化の旗を振った直後だけに、出鼻をくじかれた。でも、2%程度の課税なら大した問題なしと強気の姿勢のようだが。でも、購入した個人投資家で、このニュースを聞いた人はヒヤッとしたことと思う。ほとんどの購入者は、国際ニュースには無頓着だけどね。知らないからパニックも起こらない。幸せといえば幸せ。

ちょっと脱線したけど、要は、一見好調な資源国、発展途上国と言えど、ホイホイと利上げを続けられる環境ではない。低金利時代は継続である。

なお発展途上国の中で、中国は別世界。そもそも金利政策が機能しない。人民元高を本当に容認できるのか。10月だけで4%も上昇した不動産価格。この過剰流動性バブルをどこまで抑えられるのか。この国に限っては、金利よりも党の意向が決定要因になる。人民銀行による人民元相場への介入。ウムを言わせぬ「指導」による銀行融資の削減、あるいは奨励などが焦点となる。

一方、日米欧は、そもそも利上げなど、まだ先の国々である。出口戦略開始の順番としては米欧日の順になるのだろうが、口火を切るべき米国の利上げのタイミングがマーケットを占う意味で大きなポイントになることは間違いない。それが2010年3月なのか、6月なのか、はたまた12月なのか。

3月なら(その可能性は非常に低いと思うが)、低金利を利用したドルキャリーマネーは早々と撤退。ドル安にも歯止めがかかるから金買いは一休み。6月、さらに12月ともなれば、投機マネーの視点で見れば、まだまだ6カ月は遊べる賭場だということになる。目の前の板の上にコマ札が積み上がったところで、調子に乗って、よし、もう一勝負!とゆきたくなることであろう。胴元の投資銀行なども、「若旦那、勝ち逃げはいけませんぜ」と囁く。(どうも、鬼平モードから抜けませんな...。)

と、ここまで書いたところで、出社時間となったので、今日はこれでおしまい。この問題の続きは、来週発行のエコノミスト誌の金特集に寄稿した原稿と、日経マネー1月号から始まる、「from ゴールド to ワールド」という筆者の連載コラムを見てね!

11月28日開催の日経プラスワンフォーラムでも、この問題が主題となります。

2009年