豊島逸夫の手帖

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マーケットの流れを変えたマサチューセッツ

2010年1月25日

虫の目で見ると、マーケットの不安感が嵩じている。VIX指数(恐怖指数)も先週から急騰。金曜日にも23から27まで上げている。NY株式市場は、いよいよ本格的correction(調整局面)かと身を引き締めている。商品も安い。外為市場が多少なりとも安心感を感じるのが日本円程度と思われることに、全体の不安感の拡大を感じる。そして足元では、今週はFOMC、米大統領一般教書演説(所信表明)、そして1月31日に迫ったバーナンキ再任の議会承認の行方。

魚の目でみると、マサチューセッツ州での故ケネディー議員の議席を巡る上院補欠選挙で民主党が敗北したことで、民主党陣営が一気に神経質になり、populism(大衆迎合主義)が台頭して、オバマが唐突に、新金融規制案を発表。マーケットのセンチメントは、毎月の雇用統計結果に支配される地合いから、オバマの揺れる金融市場対策スタンス動向にシフトしている。マサチューセッツがマーケットの潮流を変えたと思う。

鳥の目で見ると、自由市場派が後退し、市場規制派が勢力を伸ばしつつある歴史の流れを感じる。金融危機はマーケットを野放しにした結果だとして、規制論が急速に勢いを得ている。サッチャー以来の英国型自由経済モデルから、伝統的フランス、ドイツの政府主導型経済モデルへの転換とも言える。"民"から"官"へ、マーケットの中枢が移行している。

さて、日本もそうだが、米国でも政局がマーケット変動要因になってきたね。バーナンキ続投に反対派が急速に増えたことを見ていると、彼がスケープゴートになっている感じ。先週金曜日時点ではバーナンキ再任に対しての上院の票読みがこうなる。(米CNBCによる部分調査。週末に変化も。)

再選賛成22 反対12 未決定16

党派別では
民主党 賛成10 反対4 未決定13
共和党 賛成 7 反対7 未決定 4

かなり票が割れていることはたしか。それでも、まず再任されようが、反対派の理由がやれ締めすぎだの、やれ緩め過ぎだの、国民の経済に対する不満をFRBのせいにしようという意図が見え見え。たまりかねたようにグリーンスパンが登場し、「バーナンキ以外に適任はいない」などと外野から声援を送っている。

さらガイトナー財務長官と、オバマ政権のブレーン、サマーズのメンツも丸つぶれ。オバマが規制論者の元FRB議長、ボルカ―論を公然と支持したから。とくにガイトナー評は、ここ数カ月下降の一途だね。個人の税問題でミソつけてから、政策運営面でも明らかに影が薄まっている。

それから、話題をいくつか。

―英国のテロ警戒レベルが引き上げられ米国並みになった。アルカイダが英国に照準を当てているという観測強まる。

―日本の市場不安心理の表れであろうか。先週金曜日に東証の金ETFの取引高が154,426口と、初めて10万口の大台を大きく突破した。ここ3カ月、平均で倍増してきたが、どうやら本格的にtakeoff=離陸した感じ。(1年前は平均で1万口台であった。)

―その金価格は、1100ドルを割り込んできた。リスク回避の売りと、リスクヘッジの買いが交錯する。金をリスク商品として処分する投資家と、「安全資産」米国債もやばいと金に分散する投資家。

「金を通して世界を読む」の「はじめに」にこう書いた。
(引用)
金融危機の後で、金貨や金地金が品薄になるほど世界の個人投資家に買われたのに対し、ヘッジファンドはリスク資産圧縮の一環として先物の金を売りに走った。個人はリスク分散(ヘッジ)に動き、プロはリスクから逃避する。
(引用終わり)

今また、アジア中東地域の金購入は1100ドル割れで活発化しているのに対し、オバマのヘッジファンド、PE(未公開株)規制を嫌ったプロはリスク資産圧縮に動いている。ただし、今回は、同じプロでも「キャッシュと金の比率を高める」というようなポートフォリオのリアロケーションが以前になく増えていることも事実。

国債も安全資産とは言えない。金も安全資産とは言えない。そもそも安全資産など、もはや存在しない。となれば、リスクのベクトルが異なる資産に分散するしか方法はない。金市場に流入するマネーも、当座のリスク回避の「雨宿り型」に、腰据えた長期戦略的分散投資の「お引っ越し型」が加わってきた。

それから、プラチナの下げがきついね。オバマのファンド規制は、流動性の小さな市場により強く効く。それにしても金1200ドルのときとか、プラチナ1600ドルのときとか、市場参加者のほぼ全員が強気になると、要警戒ということだね。

さて、先週金曜日は岡山出張。鮨のサワラなど瀬戸内の白身の魚とかタコとか絶品でありました。日本人に生まれた良かったぁと思うね。

おっと忘れちゃいかん、肝心の講演の方も、山陽新聞主催で200名以上の応募があり盛況でした。どこでも最近の傾向は、来場者が少なくも倍増。市場の裾野の広がりを感じます。筆者が嬉しいのは、岡山でもブログ読者が来て下さること。

そして週末は、またまたスキー。土曜は大雪。日曜はピーカン。スキーの昼食は、カツカレーかカツ丼以外に考えられない。夕食も居酒屋のつまみ風を出されると、「はようメシださんかい」と叫びたくなるのだ。とにかくお腹にずっしりのボリュームが欲しい。薄味では物足りず、思わずソースや胡椒をかけたりしている。仕事のウイークデーでは、絶対薄味派で、どんぶり飯など入らないのに。

ガーラ湯沢の山頂は5メートル近い積雪と樹氷。たしか今年は暖冬予報だったはずだったが。なんせ行きつけの町営浴場、源泉「山の湯」の廻りに身長以上の雪の壁が出来るのなんて何年ぶりだろ。やっぱりマーケットも天候も予測はアテにならんね(笑)。

今週は水木金と、またまた中国出張。これで今月、中国は2回目になる。ちょっと多すぎ。だけど、いよいよ中国の民間金取引のインフラが構築されつつある正念場。仕事としては、やりがいがある。なんせターゲットが100万人の単位だから、桁が違う。広大な領土ゆえ、流通チャネル作りも大変な作業ではあるけれど。底知れぬポテンシャルを、身を持って感じているところ。

時あたかも中国の引き締め政策が市場に大きな影響を与えている折でもあり、その問題についても現地の金融の実態を直接つぶさに見てくるつもり。もちろん「食」の実態の現地調査も怠りなく継続(笑)。上海からスキー場近くの飛行場に直接帰国しようかと企んだが、甘かったね。金曜朝の便で帰って溜った仕事片付けねば。

2010年