豊島逸夫の手帖

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オバマ金融規制の商品市場への影響

2010年1月27日

今回オバマが示した金融機関の規模縮小案や自己勘定部門規制が商品市場にいかなる影響を及ぼすものか、考えてみたい。

まず、本案が、一部の大手銀行を狙い撃ちにしていることは明らか。自己勘定部門が活発に動き収益に貢献している金融機関といえば、まずゴールドマンサックス以外に現実問題として考えられない。他の多くの金融機関は、そもそもリスク管理が厳しくなる中で、自己勘定部門を持たない、あるいは開店休業状態だから、そこを規制と言われても別に痛みも感じない。

その自己勘定部門だが、国際的商品取引の流動性を供給して売買を円滑にする役割を果たしてきた。とくに機関投資家からの大きな売買注文に対して、瞬時に値がつくという意味でのマーケットの流動性を確保するためには、自らリスクを取って、その売買注文の相手方を務めるというマーケットメーカーの存在が不可欠である。仮に投機筋が大量の買い攻勢を仕掛けたとして、それに対して売り向かう市場参加者が居なければ、価格は投機筋の意のままに暴騰してしまう。そこで、マーケットメーカーがオファー(売り唱え)を提示することが、価格暴騰に対するクッションの役割を果たす。その投機筋が仕掛けた商品が、もし原油であれば、そのクッションが庶民生活を守る機能を持つとも言えよう。

そのようなマーケットメーカーの売買を規制しようというオバマの根拠は、そのマーケットメーカーが相場で大儲けして高額のボーナスを支給しているということだ。しかも、そのマーケットメーカー機能を持つ(自己勘定部門を持つ)金融機関が公的資金投入を受け、且つ、タダ同然の資金をFRBから調達できるということであれば、納税者を納得させることが難しい。タダ同然の資金で相場張って、儲かれば高額ボーナス。損すれば公的資金投入で救済、というモラルハザードも懸念される。

そこでオバマは選挙対策として後者を重視したわけだ。

この措置が、商品市場の流動性を減少させることになるのは間違いない。ということは、商品価格のボラティリティー(価格変動)も激しくなろう。とくに相場が荒れたときに、先物取引やETF売買の値付けがスムーズに進行しなくなるケースが考えられる。顧客の投資家にとっては、いざ売り逃げようとか、損切りの買いを入れようとかいうときに、ザラバで値が取れないと、やばいポジション抱えたまま、呆然と相場モニター画面を眺めるのみ、という事態にもなりかねない。極端な場合、取引不活発な小型ETFがクローズされることにもなりかねない。

株、債券、外為に比し、市場規模が小さいだけに、マーケットメーカーの存在は相対的に大きいのだ。

オバマの今回の大衆迎合的措置は、いずれ、その大衆の生活を脅かすような商品価格変動を招くリスクも孕む。

さて、昨日は、日経マネーによる、森下千里さんが住商のトレーディングルームを探訪するという編集企画のナビゲーターをやってきました。

筆者は、かねがねプロがどれほどの機材を投入し、且つ、厳しいリスク管理の元に売買業務に従事しているか、個人投資家にも知ってほしいと感じていました。重装備で相場に立ち向かうプロに対し、お茶の間のモニター画面ひとつを武器に相場に立ち向かう果敢(?)な個人投資家たち。

でも、プロより個人がアドバンテージを持つ部分もあります。それは個人投資家が決算期に縛られないということ。これはプロから見ると羨ましい。じっくり魚の目、鳥の目で相場を俯瞰して、中長期のポジションを持つことが出来ます。対して、プロのトレーダーは、ややもすれば虫の目で売買をしがちです。長期間に亘ってポジションを引っ張ることは、リスク管理が許さない。

このアドバンテージを生かしつつ、自分たちのハンディキャップも認識してもらう意味で、今回の企画は、来月号の同誌に載る面白い記事になると思いますよ。

編集部の人たちとの雑談中に筆者が思いついて、トレーダー時代からの盟友、住商の高井氏(今は偉くなって金融事業本部長という親分格になった)に呼びかけたところ快諾してくれたので実現しました。

森下さんがトレーディングルームで読者代表として新鮮な驚きと素朴な疑問を連発するので、おおいに盛り上がり。(相対的に?)若手の現役トレーダー諸との座談会では、あのリーマンショックのときのディーリングルームの緊張感とか、個人でもプロでも変わらない相場の悩みが伝わり、「プロでも損切りは難しいんだ」ということが浮き彫りにされました。

まぁ、これ以上は同誌の記事をお楽しみに。貴金属、原油だけではなく排出権取引の実態とか、アルゴリズム売買の現場もビジュアルに分かるので、内容が濃く、2回分の記事になっても不思議ではない感じです。

今日は夕方から中国出張。といっても金曜の朝便で帰国というトンボ帰りですけどね。国内出張の感覚と大して変わりません。アジアの中のジャパン、ということヒシヒシ感じます。

2010年