豊島逸夫の手帖

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底堅いインド経済

2010年3月5日

金の2009年年間金需給統計を見て、筆者が予想外であったことがインド金需要の粘り腰である。2009年9月末時点までは、金需要量が中国に追い抜かれていた。このままゆけば、インドは第二位に転落必至と思われたが、10-12月期にインド(民間)金購入が再活性化して、最終コーナーで中国を抜き返した。それも僅差。インドは昨対マイナス33%で480.0トン。中国はプラス7%で461.9トン。なにやら冬季オリンピック、女子スケートのパシュートで、最後に日本を逆転したドイツ・チームを彷彿させる展開だ。

この背景として見逃せないのがインド経済の回復。経済成長率も7%の大台を突破し8%台が見込まれる。ただし、10%の大台突破はまだ先のようだが。その推進力が公的部門の財政出動と民間消費支出。中国経済が、公的部門と輸出部門に支えられ、個人消費は出遅れているのと対照的だ。

そこでインドの民間消費支出を促進しているのが農村部雇用保証制度である。公共工事関連などで肉体労働を年間100日間は保証されるのだ。家族に成人労働者が複数いれば、全員に適用される。所帯平均で年間15000円程度にしかならないが、それでも人口10億の国だから、全体の景気浮揚には大きく貢献している。エコノミストからは大衆迎合的政策との声もあるが、 政治的には昨年の総選挙での与党連合勝利の決め手になったことも事実。

この制度は資格者の雇用を平等に保証するので、結果的には女性の可処分所得増大にも寄与している。さらに、給与振り込みの必要が拡大したことで、農民の銀行預金口座開設を促す効果もあった。

この制度以外にもインドは政府による助成金の存在が目立つ。ガソリン、食品から肥料まで政府の補助で価格が低く抑えられているのだ。農民に電気代がタダというような例まである。(ゆえに、競争原理が働かず、電力会社が育たず、慢性的な電力不足という弊害も大きいのだが)。

こう見てくると、個人消費がインド経済を引っ張るといっても、政府に支えられた構図であることが分かる。問題は、この現状がいつまで持つかということ。徐々に民間セクターが政府補助抜きでも独り立ちできるようにならないと、消費の持続性は望めない。

政府補助のばら撒きは汚職などの腐敗や、国内価格が低く抑えられている油を隣国に密輸するとか、様々な弊害も生む。短期的痛みを伴っても、自由化を進めねばならぬ。しかし、インドといえば、世界に冠たる(?)官僚王国。その既得権益を打破することは容易ではない。ここがインド経済の今後を見る上で、ポイントだと思う。

とここまで書いたところで、今朝は花粉症には辛い朝となった東京地区の天気模様。筆の進み具合も鈍い。

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2010年