豊島逸夫の手帖

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点滴を外す時

2010年3月29日

ギリシア問題を囃し疲れたマーケットの次のテーマは米国経済に戻りそう。ユーロ不安からドルを買ったものの、ホントに長くドル買いポジションを持てる市場環境なのかい、ということだ。医療改革法案が米議会を通った途端に米国債市場に異変発生。先週行われた米国債入札の結果が連日不調。ドル長期金利のベンチマーク=10年債利回りが一時は4%台に接近する場面も。

しかしこれは「悪い金利高」。一方、ドル短期金利もFRB利上げの可能性を徐々に意識しつつ、じり高。本欄でも何回か触れたLIBOR(ロンドン銀行間金利)3カ月物のスプレッドを見ると、ドル金利が0.28%、円金利が0.24%。再びドル金利のほうが高く(円金利のほうは日銀の追加的金融緩和を意識しつつ安く)なり、金利差要因でドルが買われやすい(円は売られやすい)地合いだ。少なくても、マーケットで持て囃されたドルキャリーのメリットは薄れてきた。

そして今週末は毎度お騒がせ、米国雇用統計発表。米ドルの金利差要因の大元である構造要因のほうが注目される。ホントに米国経済の実態は好転しつつあるの?という点だ。筆者の見方は、短期的にプロの間のドル資金の流れとしては、ドル買いに流れやすい。ギリシア問題がPIGSに波及する過程でユーロ売りの第三波もあるかもしれない。

しかし、米国経済の実態はまだとても安心できる状態とは言えず。雇用統計が好転気味とはいえ失業率は高止まり。肝心の米国不動産市場にも、これから試練が待ち構える。今月末でFRBによるファニーメイ、フレディーマックなどのエージェンシー債の買い取りが終了するからだ。つまりリーマンショック後、米国の住宅ローン債券を民間の市場が買わなくなり、しょうがないからFRBが肩代わりして買い取ってきた。それを、もう止めますよ、という宣言である。さらに、FRBがこれまで買い取った部分が1兆ドル以上あるのだが、これをいつまでも持ち続けるわけではない。いつかは民間に売り戻さねばならぬ。そうなったときに民間がもう安心して米国の住宅ローン債券を買うかどうか。買い手がつかなかれば、米国の住宅金融システムはふたたび立ち行かなくなる。

米国不動産市場はFRBの点滴により支えられてきたわけで、その点滴が外されると、患者(経済)はどうなるか。不安は尽きない。従って、長期的に構造要因を見れば、潜在的ドル売りエネルギーも相当に溜っている。

短期の資金運用はドルで廻すが、長く持つ気はさらさら無い。逆に中央銀行の外貨準備などの超長期ポジションはドル減らしが粛々と進行している。マーケット参加者の本音は、ドルもユーロも円も、全ての通貨を売りたい気持ちではないだろうか。FX的には買いたい通貨が見当たらない。

まぁ、金の世界から見れば、そこに無国籍通貨=金が浮上する市場環境があるのだけれど。

その金価格は、ギリシア問題打開に筋道らしきものが見えたということでユーロ反転、ドル反落により金が反騰。先週金曜日には、韓国軍用艦沈没で、すわ朝鮮半島有事かとの憶測による有事の金買いも、という報道もあったが、これは金の買い戻しの口実に使われただけ。もはや有事で金が素直に買われるような市場ではない。

さて、筆者は今日から今年3回目の中国。今回は、国内金融引き締めの実態、人民元高を本当に許容するか、などを北京で探ってきます。

最後にツイッタ―で紹介して反応が強かったジョークをブログにも張っておきます。(いま色々ネットに流れているようで、大元は霞が関と見られる。)

日本には謎の鳥がいる。正体はよく分からない。中国から見ればカモに見える。米国から見ればチキンに見える。欧州から見ればアホウドリに見える。日本の有権者にはサギだと思われている。オザワから見ればオウムのような存在だ。でも鳥自身はハトだと言い張っている。私は、あの鳥は日本のガンだと思う。

週末の日経政権支持率調査の結果が36%に低下という世論の背景が滲み出るジョークではあるね。

それでは。羽田から行ってきます!

2010年