豊島逸夫の手帖

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ドル安でもドル高でも上がる金価格の謎

2010年4月12日

ドイツ経済も日本経済も中国経済も、内需主導型成長路線を歩むべきときに、実際には依然、輸出依存体質から抜けきれないでいる。

米国経済も、金融危機前までは消費過剰であったが、今や輸出に経済成長の活路を見出そうとしている。肝心の個人消費は回復しつつあるのだが、どう見ても元の水準には戻らない、というか戻れない。当たり前である。危機前にはクレジットカード使い放題、自宅の不動産価格は急上昇というバブリーな経済環境で、身分不相応の買い物が出来たわけだが、今やそんな甘い時代には戻れない。そうなると、米国でも残るは輸出頼みということになる。

その結果、主要国全てが輸出を増やするために自国製品の国際競争力強化に動く。そこで一番即効性があるのが自国通貨安である。

考えてみれば、おかしな話ではないか。通貨価値というのは発券国への信認度を測るバロメーターでもある。それなのに自国の通貨が買われることを嫌う。それも主要国の多くが。

でも全ての主要国が輸出依存体質になると、限られたパイの取り合いになるのは当然の結果。隣国を踏み台にして自国だけは這い上がろうとする。いわゆる近隣窮乏化政策である。

このような光景を見せつけられた世界の投資家のココロに、「そもそも通貨の価値ってなんなの?」という素朴な疑問が生じるのは至極当然のことであろう。FX的に言えば、全ての通貨を売りたい気持ち。「通貨不信」が「通貨の原点回帰」現象としての金(=無国籍通貨)買いとなって表れているように思える。これが金の世界から見た、今の世界経済の縮図である。

相対的に通貨の価値を比較すれば、ドル安、ユーロ安、円安、人民元高、資源国通貨高、無国籍通貨高という構図か。

足元の金市場を虫の目で見れば、ドバイでは高値警戒感強く買い控え。NYでは金ETF残高急増。新興国売り、先進国買いの構図になってきた。象徴的な現象だと思うよ。

いまやソブリン債でも先進国モノは敬遠され、新興国モノが選好される時代。(新興国のソブリン債は出物が少ないけど)。財政不安を強く感じる国は高値圏の金を買い進み、アジア経済危機の教訓で外貨準備を蓄え国の財務体質強化に努めてきた新興国は高値の金へは手を出さず、下がるのをじっと待つ余裕がある、というべきか。

昨日のツイッタ―呟き集から。
―アジア通貨危機は、タイ中央銀行がヘッジファンドのバーツ空売り攻勢を必死に買い支えるも奮闘むなしく果たせず「血塗れのバーツ」と呼ばれたことが発端。しかるに今回のタイ暴動は内政問題の流血騒動。これが地域経済危機に発展せず。アジア経済危機の教訓で新興国は外準貯え先進国より健全体質。
―「新興国モノにはリスクがあって」などと欧米のアナリストがしたり顔に言っても、新興国から見れば、いまや先進国の赤字体質のほうにリスクが移転しており、「あんたに言われたくないよ」という気持ち。国債による資金調達コストも新興国は低下基調。先進国は上昇基調だもんね。

まぁ、あとの呟きは、もっぱら九州のうまいもの情報で参加者が盛り上がったけど。8割食い物の話で2割経済の呟きだったな(笑)。

2010年