豊島逸夫の手帖

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三極通貨から多極通貨へ

2010年4月26日

人民元はもちろんだが、BRICsの通貨が買われ上がっている。過去一年間、ブラジルのレアルは27%上昇。ロシアのルーブルは14%上昇。アジア通貨も軒並み高い。

水は低きにつくが、マネーは金利が低いところから高いところに流れる。こうも言えよう。利上げ出来る国へ、利上げできない国からマネーは流れる。まだ術後の体力が戻らず出口戦略に踏み切れない先進国から、いち早く出口戦略に踏み切った新興国へのマネーシフトとも言える。

ソブリンリスクが懸念される国から流出、ソブリンリスクが低い国へ流入という面も強まっている。

問題はマネー流入が加速している新興国通貨の上昇ピッチが急過ぎること。ロシアなどは、昨年の今頃、ルーブル安を食い止めるために巨額のドル売り介入を実施していた。しかし、原油価格の再上昇とともに、投機マネーが一転してルーブル買いへ動いた。今や、このままではホットマネーの流入による過剰流動性の発生がインフレ懸念を惹起しかねないほどだ。(原油価格の動き次第で、ロシアほどの大国(?)の通貨価値が、かくも180度大きく振れてしまうのも問題だろう。この問題にプーチンは無関心である。)

また、ブラジルはいち早く流入資金に課税措置を打ち出したが、ホットマネー流入を食い止めることは出来ていない。モメンタム(勢い)が勝る。そして、アジア通貨高は、輸出産業へのマイナス効果が早くも顕著に出始めている。中銀は介入で対抗せざるを得ない。

世界の通貨地図を俯瞰してみると、先進国の三極通貨はどれも構造的欠陥を抱える。雨宿りで保有することはあっても戦略的に長期保有することは躊躇われる。その結果、以前にも書いたが、ドル安、ユーロ安、円安 VS 人民元高、新興国通貨高、無国籍通貨高の構図となりがちだ。

さーて、今週は、FOMC、米GDP、米消費者関連指標など重要経済指標やイベントが盛りだくさんの週。かたやギリシア問題は燻ぶり続ける。米ドルとユーロ。どっちがヤバイか。Less bad という基準で通貨の美人投票は決まってゆく。

なおツイッタ―で、人民元切り上げの金価格への影響を聞かれた。
結論、たいしたことない。
段階的人民元切り上げは、さらなる切り上げ観測を呼び、投機的人民元買い、ドル売りとなるが、一方、ギリシア危機=ユーロ売りでドルが買われる傾向もある。ドル買い、ドル売り、かなり拮抗するので、結果的には金価格への決定的影響は出にくい構造だ。

2010年