豊島逸夫の手帖

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需給均衡点を切り上げてゆく金価格

2010年5月14日
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足元の金価格はオーバーシュートの様相だ。ドバイ、ムンバイ、香港などの現物市場は売り一色。新規現物買いを大幅に上回る。需給はジャブジャブだ。それでも金価格が史上最高値をつけた推進力はNYにある。先物とETF。

NY金先物買い越し残高は717トンと高水準にある。足元ではもっと増えているはずだ。金ETFの8割のマーケットシェアを持つSPDRゴールドシェアの残高は今月に入って1,159トンから1209トンに急増した。

金先物で買われた部分は早晩売り手仕舞いされるからゼロサムゲームだ。しかし、レバレッジのかかっていない金ETFの購入者は中長期的に保有する傾向が遙かに強い。買いっぱなしなのだ。これはボディーブローのようにズッシリ効く。

このように今の金市場の買い手を分析すると

新興国の金退蔵需要安値待ち
金ETFモメンタム(勢い)で買い上げ、年金は安値待ち
金先物短期的買いポジションが更に積み上げ

これが示唆するところは、短期的には投機筋はすでに積み上げた金買いポジションをこれから如何に売り抜けるか、売りのタイミングを虎視眈々と狙うことになる。

そこで下がったところは、新興国市場の退蔵需要がすかさず拾ってゆく。下で口開けて待っているわけだ。金ETFに関しては、下がれば下がったで、年金などが金長期保有ポジションの積み増しに動く。ゆえに、短期的には調整売りが出やすい局面だが、底は浅い。瞬間的に下へ突っ込んでもすかさず拾われると思う。

調整売りが出やすい環境としては、株ポジションが毀損しており、国債ポジションにはソブリンリスクが気になる状況なので、高値圏の金換金売りでリターン捻出を計る傾向が指摘できる。

マーケットのお祭り騒ぎからは距離を置いて、魚の目で潮流を見よう。金価格が投機で過熱。これはバブルだ。と短絡的に片付ける論調が出がちだ。しかし、長期的には金市場の構造的変化が進行する中で、新たな需給均衡点=図のE'(赤色)を模索している段階と見るべきであろう。もし金市場に構造的変化がなければ、需給均衡点はのE(黒色)の旧水準に戻り収斂するだけだ。

しかし、構造的変化が生じている現在は、図で需要曲線が右にシフトするようなケースになるのだ。そこで新たな需給均衡点の模索の過程に入るわけだが、その道中にはオーバーシュートもあるし、アンダーシュートもある。オーバー、アンダーを切り返しつつ、新興国も徐々に高値慣れしてゆき、新たな需給均衡点に価格は収斂してゆく。その収斂する水準は1150-1200のレンジにあるのではないかと思う。

2010年