豊島逸夫の手帖

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南欧、規制、中国のトリプル安

2010年5月24日

今のマーケットで頻繁に聞かれる言葉が、de-risk=リスク外し、である。各国が市場のリスクを抑え込もう動くと、改めて、そんなにリスクがあったのかと市場参加者は疑心暗鬼になる。

米国の新金融機関規制、独の空売り規制、英のヘッジファンド規制。規制、規制、規制。そもそもマーケットを放任主義でやりたい放題やらせるとサブプライムのようなことが再度起きかねない、という教訓から出たことだ。性善説から性悪説への転換とも言える。人間、ほっておけば、何やらかすか分からん、という発想。そうなると相対的にリスクが高そうな投資媒体から、相対的に低そうなものへ資産を移す現象が起きるのは毎度のこと。プロも疑心暗鬼にとりつかれ、LIBORが上がって来たことは前回書いたとおり。

欧州緊縮政策、金融規制による市場流動性の減少(市場の売買が委縮して減ると貧血みたいな症状になる)、そして中国引き締め懸念。このトリプル要因が示唆することはデフレ気味の兆しである。そうなると、マネーはますます債券市場に流れやすい。株、商品は売られがちになる。

原油、プラチナの地合いは軟弱である。とくにプラチナ市場は、ショック症状で言葉も出ない。店頭価格が一晩でグラム400円以上も下がるのだから。

NYMEXでは、プラチナETFの解約による、マーケットメーカーによる、まとまったカバー売りが出ていた。流動性が少ない商品ETFは顧客が売りに回ると下げが加速する。劇場のシンドロームと言われるマーケットの現象が起きやすい。(火事だ!の叫びで観衆が一斉に狭い非常口に殺到するイメージから生まれた表現)。商品ETFは流動性が少ないと上げ幅を派手に増幅させるが、下げに転じると逆に下げ幅を増幅させる。

筆者のところにも、ここ数日、悲鳴にも似た投資家の相談が多い。「プラチナのポジション、どうすればよいか」。正直、言葉もない。悲惨すぎて、「だからいったじゃないの」とも言えないし。反騰しても、売りそこなって上で待っているひとも多いから、地合いは凝(しこ)って、頭が重くなる。とにかく金史上最高値連日更新とかプラチナ祭りとか、 マーケットがはしゃぐときは要注意。

金は連れ安だが、1180ドル近辺で下げ渋っている。金の今後だが、経済が危機的様相を呈してくると、de-risk=リスク外しの流れに巻き込まれ、まずは売られる。しかし、それが一巡すると、risk diversification=リスク分散のために徐々に買われ始める。これがリーマンショック後の金価格の展開であった。今回も同じ軌道を辿ると思う。

マーケットの注目点としては、今週、米国経済の実勢から目が離せない。全般に改善傾向だが、物価、雇用にまだデフレっぽい気配が漂う数字も出たりする。外為もユーロのアラばかりが取り沙汰されてきたが、米国のアラが目立つ時も必ず来る。

そして財政不安の飛び火が心配なのは英国ポンド。英国債の償還期限が長めなのが救いだが、新政権が舵取りを誤ると投機筋の売りの格好の標的にされやすい。ユーロは参加国が支えてくれるが、ポンドを誰が支えるのだろうか。ソロスがポンドの売りを仕掛けて大儲けしたことは徐々に忘れられたかのようだが、歴史は繰り返すかもしれない。

なお、バロンズ誌のヘッジファンド番付トップ100(過去3年間のパフォーマンスの年平均)で断トツの一位がポールソンと発表された。なんと、122.92%。ちなみにヘッジファンド全体の平均で2.24%。トップ100の平均でも20.83%。GS訴追の一件ではミソをつけたが、この分ではポールソンのカリスマ的人気は衰えそうにない。ファンドは儲けてナンボの世界。勝てば官軍である。

最後に今日のテレビ東京系列のニュースFINEで金特集やります。スタジオ生出演です。15時35分から。


放送日が史上最高値更新の最中だったら、ブログ同様にちょっと待てと警戒信号出したでしょうが、急落の後なので、だいぶ強気に語れます。

2010年