豊島逸夫の手帖

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ギリシア8月危機説

2010年6月30日

筆者のロンドンの仲間たちからは、しきりにギリシア8月危機説が流れてくる。

ギリシア経済は、結局、ギリシア国民がラテン気質(キリギリスモード)を捨てドイツ気質(アリモード)にならないと、問題の根本の解決にはならない。それは無理筋。マーケットがギリシアを見捨てる日が8月に来るのでは、という説である。今年の夏は、殊の外、暑い夏になりそう。夏休みにビーチで寝そべっていても、blackberry(携帯端末)だけは砂の上の置いておかねばと割り切っていると、あきらめモードだ。

さて、昨日の株安連鎖は中国から始まった。きっかけになった中国農業銀行のIPO。これは現地で既にだいぶ前から話題になっていたことで、6月16日付け本欄にもこう書いた。

(以下引用)
欧米では銀行の国有化が起きているが、中国では銀行の民有化の真っ最中。最新の話題は四大商業銀行で最後の民営化として中国農業銀行(ABC)のIPOが進行中。総額二兆円近くにのぼるので、ICBCを上回る過去最高規模になりそう。

1950年代に毛沢東のより設立され、顧客数は三億二千万人で米国の人口上回る規模。資産額ではインドのGDPを凌ぐ。でも財務内容は四大商業銀行中、最も脆弱。欧州財政危機、中国バブル懸念という市場環境悪化の中で、どこまで吸収されるか、みもの。

第一弾として、クエ―ト、カタール、シンガポールのSWF(政府系ファンド)が購入に踏み切った。こういう手法で景気づけしてから、いよいよ一般投資家に売り込むのが彼らの常套手段である。
(引用終わり)

そして昨日は、どこまで吸収されるかということが、現実問題として懸念される市場需給環境になってきた。しかし、中国経済より懸念されるのは(欧州経済は勿論だが)、米国経済という様相になりつつある。筆者流の言い方をすれば、税優遇措置という点滴で一時は快方に向かったかに見えた米国住宅市場だが、点滴を外したら、たちまち症状がぶり返してしまった。

さて、熱心なブログ読者の女性から寄せられた質問。

「先日、PIMCOのCEOの発言で、Jeffさんも同感と仰られて居ましたが、あまり影響もなくて、皆、強気でした。しかし、金チャートを見ると、とても不安を感ぜずに居られません。あまりにも、このまま右肩上がりと考えるのは不自然で大きく下落する前の様に見えます。皆、強気で少しこわい気が致します。何か皆とりつかれているような不安も感じます。冷静にならなくては、と。」

同感です。筆者は依然、魚の目で、割高感を感じています。例えば8月ギリシア危機説が本当に起こったら、リーマンショック直後の暴落の再現もあるでしょう。でも鳥の目で見れば、下がってもすぐ買われるから、持続的に「大きく下げっぱなし」にはならないと考えます。

虫の目で見ても、昨晩1230ドルまで海外金が急落して、ドル円が88円台なので、「そろそろ円建てでは釘刺しも返上か」とtwitterで呟いたけれど、直ぐに1240ドル台まで反騰してしまった。リスク回避で売る人が出ても、リスク分散で買う人がいくらでも下で待っていることを改めて痛感。

2010年