豊島逸夫の手帖

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北京からのレポート2 - 中国が輸出するものは製品だけではない

2010年8月18日

中国が、管理された人民元政策の元で、メイドインチャイナの製品を輸出すればするほど、競争相手の国々に失業も輸出している。通貨安政策を採り、相手国の輸出産業から雇用を奪っているわけだ。

もし、人民元を完全自由化すれば、これはこれで日米欧も新興国も困ることがある。中国の基幹輸出産業が縮小すれば、中国経済成長が減速し、国内消費が落ち込み、輸入が減るからだ。この場合、中国は、日米欧と新興国にデフレを輸出することになる。

では妙案はないのか。

結局のところ、中国経済が輸出依存体質から脱却し、個人消費を推進力とする内需主導型経済に転換せねばならない。しかし、医療も年金も遙かに遅れている現状では、将来への不安から個人はどうしても貯蓄に走る。

中国の街並を歩いていて感じることだが、病院とか開業医とか医療設備が見当たらない。絶対数が不足しているのだろう。病院の診察予約券にプレミアムがつく国である。

そこで厚生福祉のインフラ構築に銀行融資などのカネが廻ればよいのだが、実態は、融資が地方の国営企業などに流れて不要の生産設備などが増えるばかりだ。そこで利を得た企業は余裕資金を株や不動産などの投機に向けるというのが、これまで繰り返されてきたパターンであった。

銀行は増資で体力をつけ、政府から融資再開要請があれば、いつでも出動できる構えだ。今後、中国経済の減速が顕著になれば、国策銀行ともいえる民間商業銀行が景気づけに過剰流動性をばら撒くことになろう。

ただし、日本のバブルと根源的に異なるのは、道路、空港などのインフラ投資が決して無駄にはならないことか。中国で出来たての高速道路が早くも渋滞している様と、日本で立派な農道を走っても対向車がほとんど来ない体験と対照的だ。中国の地方部で身分不相応に豪華な「文化会館」などの「箱もの」も見当たらない。

生産的な公共投資と個人消費を促進する厚生福祉投資に、輸出で稼いだカネがうまく廻れば良いのだが。中国が日本を抜いたとかの問題より、中国経済が健全な形で成長を続けてくれることが日本経済にとっても なによりの薬なのだと感じる。

2010年