豊島逸夫の手帖

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金価格は日銀の通信簿

2010年10月6日

1300ドルを突破して高値警戒感が強まった金価格をさらに押し上げる結果になったのが、日銀のサプライズ追加的金融緩和であった。

連日史上最高値を更新しテクニカルには青天井で「海図なき海域の航海」に乗り出した金価格をバブルの一言で片づけるのは簡単だ。しかし、その意味するものは金融政策への信頼の欠如という根深い問題である。

限りなくゼロに近い金利をゼロに下げたところで、かつ、マネーじゃぶじゃぶ作戦の範囲を広げたところで、日米金利差はほとんど変わらず、かつ、そこでばら撒かれたマネーが実体経済に廻らず、株、債券、商品市場に流入して資産価格を押し上げるだけの結果となる。資産インフレである。

金融政策は無力化し、財政政策にももはや「打ち出の小づちは無い」という経済政策不信が金価格高騰の構造的要因なのだ。

「金を通して世界を読む」の方の56ページに書いたことだが、かつて日銀高官が日経主催の国際会議のスピーチで「中央銀行家にとって金価格は通信簿みたいなもの」と語ったことがある。昨日、日銀の追加的金融緩和に金価格が即反応して1340ドルを突破したことは、日銀に対する市場の評価が著しく低いことを象徴する出来事であった。否、金融政策への評価とも言えよう。

今、日銀が置かれた状況は、四面楚歌。そこに、錆びついた銃剣ひとつで、敵と戦えと、戦場に駆り出されたようなもの。金融政策は錆びついてしまった。

さて、昨日本欄では11月2-3日のFOMC以降の市場を「魚の目」で見たが、そこまで辿り着く前に、「虫の目」で見た方の足元の相場が大変動を起こし始めた。

一言で言って過熱した相場だ。金を1300ドル台という高値圏で買うのも怖いけど、株も国債も怖い。とはいえ、お上がおカネをばら撒くと宣言しているのだから、ここはひとつ「資産価格急騰記念パーティー」に参加してみよう、というような投資家の気持ちであろう。日米欧が同時に出口戦略を棚上げして、超金融緩和を継続どころか強化するという状況で、リスクマネー全開である。

そこで個人投資家の素朴な疑問。そのパーティーに参加してよいものかしら?

パーティーの宴会場は非常口が一つしかない。誰かが「火事だぁ」と叫ぶと、出席者が一斉に出口に殺到して、逃げ遅れるリスクがある。でも火事にならなければ、エキサイティングでスリリングなひとときが楽しめる。価格が急騰すればするほど、山高ければ谷深し の例えどおり、逆V字型の相場展開の可能性が高まる。

ドルベースで史上最高値、円ベースでは27年ぶりの高値水準ということは、ほとんどの金保有者が儲かっている、というか、今売れば儲かるという状況。でも、そのほぼ全員が儲けを実現させるために売ろうとしたら、売り抜けられない。そういう市場環境だから、お金持ちならパーティーに参加してもよし。そうでなければ、参加見合わせ、静観すべき。金のパーティーは、参加者が二日酔いでひぃひぃ言っているときが「時分どき」なのだよ。

なお、欧米でも富裕層が金を大量に買っている。UBSは富裕層に資産の7-10%を金で保有するように積極的にアドバイスしている。JPモルガンは、プロの売買市場ではディーリングから撤退したが、NYの金保管金庫は大増設している。現存のキャパでは顧客の要望に応えきれないからだという。夫婦で来て、1トンもの金を現物で引き取っていった例もあるそうな。どうやって運んだのか。カネもチカラもあるカップルとお見受けした。

昨日の大阪セミナーでは、色々関西のスイーツ差し入れ、ありがとうございました。リッツカールトンの内部が細分化されているのでお礼を言う場所もなかったのですが、京丹波口「きたおの黒まめしぼり」、上品な甘さでうまかったです。「かむろのもんぶらん大福」も。

セミナー終了後に、何人かのブログ、ツイッターのフォロアーの方々と暫く談笑しましたが、日経マネーナイト関西バージョン開催の期待感が強いですねぇ。日経マネーの態勢が整わなければ、こちらの「分科会」だけ、単独開催しちゃいましょうか...。

2010年