豊島逸夫の手帖

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通貨安競争―G7の理想と現実

2010年10月8日

為替切り下げ合戦で独り勝ちを狙うのではなく、世界村でお互い共存共栄を目指す。ここで国際経済の共存共栄とは、各国が自分の得意分野に特化してゆき、不得意分野はあえて他国に譲るという精神である。比較優位を持つ製品を製造して輸出する。比較劣位の製品に関しては輸入に頼る。自由貿易の大原則だ。

これ、新著「金に何が起きているのか」の25ページ「国際経済不均衡から見えてくるもの」の章に書いたことだ。今週末に開催されるG7の理想でもある。しかし、現実は、「言うは易し、行うは難し」。農業など自国産業保護が政治的に優先される。

為替と貿易を自由化することは急性の痛みという症状を生むが、これは「産みの苦しみ」でもあり、そこを耐えれば、そのあと合併症とか後遺症もなく健康体に戻れる。その急性の痛みを回避しようとすると病状は慢性化して、世界村全体の成長が鈍ってしまう。

人民元管理のような為替政策は、失業の輸出という合併症を生む。おカネをばら撒く金融緩和の道を選択すれば、インフレという後遺症を生む。このリスクを「炭鉱のカナリア」のごとく嗅ぎつけ反応しているのが、今の金価格と言える。

公共工事などの財政出動に頼れば、財政赤字という後遺症が残る。ここでも、「炭鉱のカナリア」は、ソブリン・リスクに反応している。関税などの貿易障壁の撤廃は、一時の痛みに耐えれば、厄介な慢性的症状を残さない治療法となりうる。

だから、ドーハ・ラウンドの交渉が成功していれば、今の金価格高騰は無かったかもしれない。

さて、足元の金価格は1300ドルから1360ドルまで一気に急騰したところで、昨晩の欧米で乱気流に突っ込んだみたいな大荒れの展開になった。きっかけは、米国新規失業保険申請数が予想外に好転したこと。マクロ経済好転=11月FOMCでの追加的金融緩和観測後退=ドル安反転ドル高となり、商品が売られたのだ。昨日本欄で指摘したサプライズ・シナリオになった。マーケットが量的緩和を充分すぎるくらいに織り込んだ状況で起こりがちな展開だ。

金価格は一気に1330ドルまで急落。そして今晩の雇用統計へ。事前予想は悪い。悪いことを充分に織り込んでいる。さて、賽の目は、ハンと出るか、チョウと出るか。

明日の広島セミナーでは、雇用統計を受けた今後のシナリオから語ることになりそう。最近、最も有力なテクニカル指標として注目されている(笑)、Jeff's seminar index=ジェフのセミナー回数。3年ほどまえから日経プラスワンフォーラムで講演するタイミングが 常に新高値更新時と重なってきた。そして今回もこの2週間ほどセミナー講演が集中したと思ったら、こんなことになった。しかし、今週末でセミナー講演も一区切り。来週は中国出張に消える。ということは今週がピーク??(~_~;)

2010年