豊島逸夫の手帖

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インド支援で中国を牽制する米国

2010年10月28日

10月26日フィナンシャルタイムズ(FT)紙の一面トップの見出し。
US pushes India to take bigger Asian role(インドにアジアでのより大きな役割を押す米国)

米国は、わがまま中国に対する牽制としてインドを使い始めた。先週発売の日経マネーの筆者連載コラムでも詳述したことが、中国の強圧的姿勢が目立つにつれて、より顕著になってきたようだ。

「金を通して世界を語る」のコラムでは「インドを封じ込めようと近隣にインフラ投資する中国」と「米中印のトップが演じる厚遇合戦の裏側」を論じ、「結びつけば強力な中だが、領土と水の問題が阻害要因」だと書いた。

FT紙でも、パキスタン、ミャンマー、ネパール、スリランカとの政治貿易関係を密にする中国に対するインドの警戒感を指摘したうえで、インドはインドで昨年の米中会談のコミュニケで、オバマが南アジアに於ける中国の役割を認めたことに神経を尖らせていることにも言及している。さらに、インドのシン首相が来日して経済協定交渉を締結したことも中国を睨んだ外交と位置付けている。

さらに武器調達に関しても、インドは旧ソ連時代からのロシア依存から米国からの調達へと180度切り替えている。まだ印米防衛協定などには至らないが、インドは米国が共同軍事演習を実施した数が最大の国(過去8年間で50回)なのだ。インド側から見れば、軍事面の悩みは、紛争を繰り返してきた歴史のあるパキスタンに加え、中国の脅威も高まり、防衛が二面作戦を強いられていることだろう。

筆者は米中関係緊張化の中でインドの外交面のプレゼンスがますます高まると見ている。なお、経済面のインドを見ると、今年に入りインドの株式債券市場には338億ドルが流入した結果、ルピーの対ドル相場が金融危機後、最高水準まで上昇した。しかし、外国からの直接投資は35%減少して143億ドルになっている。短期ホットマネー流入は急増、長期投資マネー流入は減少。

インドは経常収支がGDP比3%程度の赤字国なので、ホットマネーが国際収支の赤字をファイナンスしているという、やや危ない構造である。

さて、足元のマーケットは1320ドルまで下落して軟調。10月5日付本欄にこう書いた。
(引用)
貴金属相場に関する問題は、次回FOMC後のシナリオだ。そこで予想通り大規模QE2(金融緩和第二弾)が発動されれば、材料出尽くしで一転売られる可能性がある。「噂で買って、ニュースで売る」の展開である。もし、QE2が発動されなければ、失望売り手仕舞いということになる。どちらに転んでも金、銀、プラチナが同時に売り。まぁ、QE2を先取りして上がってきた相場なれば、当然の結果とも言える。
(引用終わり)

現在の展開は、FOMCを待たずにQE2を先取りして、めいっぱい織り込み、材料出尽くし感が早くも漂う中で、手仕舞い売りが出始めた。雇用統計、FOMC、中間選挙と波乱含みの材料が目白押しゆえ、今のうちに利益を確定しておき、しばらく様子を見ようという流れである。最近のマーケットは、プロの読みをさらに先取りして、先手先手に動くようだ。こうなると、今度は、FOMCをキッカケに新規買いが入り易くなる地合いになり得る。

なお、今朝の日経朝刊2面の日本経済新聞出版社書籍広告に、「金に何が起きているか」3刷出来、前著「金を通して世界を読む」イチオシロングセラーと出ています。この種の書籍としてはいたって地味なタイトルでも、内容が真面目(まとも)であれば、じっくり読まれることを筆者としても改めて確認できました。

2010年