豊島逸夫の手帖

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有事のドル買いか 投機的ドル売りの買い戻しか

2010年11月17日

昨晩も株、商品続落。中国の証券関連誌は当局による価格統制の可能性に言及。とくに中国の物価統計の中で1/3を占める食料品の価格が10.1%も上昇していることに国民は不安を募らせているので、ここを直接的に規制する動きである。

トウモロコシや綿花の商品投機的行動に対しては厳罰を処するとか、食品の大量の退蔵の取り締まり、さらには地方自治体の首長に当該地域の価格上昇に対して責任をとらせるなど、いかにも中国らしいトップダウンの規制案が並ぶ。

今回の中国の価格上昇の特徴は、干ばつなどの異常気象が要因ではないこと。もっぱら国内過剰流動性が暴れることにより引き起こされたインフレ懸念なのだ。中国は外国からの資金流入には厳しい防波堤(規制)を築いているが、「外国からの直接投資」などの隠れ蓑で、さまざまな熱銭が規制の網をかいくぐり侵入しているのが実態。

いずれにせよ荒っぽい規制であるが、規制解除も唐突であっさり実行する。締め過ぎたと感じれば、直ちに180度転換して緩和に動くことも稀ではない。だから筆者は中国引き締め懸念を心配していない。荒っぽい国だが、成長の慣性の法則で乗りきってしまう。結果オーライの国なのだと現地でつくづく感じる。

それよりアイルランドの財政危機のほうが遙かに心配。すでに本欄では繰り返し述べてきたことだ。とくにアイルランドの銀行を救済するために公的資金をつぎ込み、それが財政支出増で国債不安を悪化させ、アイルランドの資金調達コストが跳ね上がり、(アイルランドは否定しているが)最終的にはEU救済資金に駆け込み、その負担は結局納税者にツケが廻るという悪循環。

そこで、納税者ばかり痛い思いをして国債保有者は救済されるのでは不公平というのがドイツ、フランスの言い分だ。そこで国債保有者にも減額という形で痛みを分かち合わせるような仕組みをメルケルがEUサミットで強力にぶちあげ、猿虎児じゃないサルコジも同調の構えだ。こうなると国債市場にはますます不安が募り、売り叩かれ、国債利回りは急上昇してアイルランドの資金調達はますます難しくなる。

しかも問題はアイルランドに留まらない。南欧に波及すればEU全体の問題となる。どうも、この問題はややこしくて、根が深いね。

そこで外為市場ではユーロ不安から「質への逃避」マネーがドルを選択している。これまでの投機的ドル売り(株商品買い)ポジションの巻き戻しも、もちろんあるが。

なお、昨晩のNY債券市場では悪い金利高で一時10年債利回りが2.9%台まで急騰後、午後に入ると一転2.8%まで下がり始めた。質への逃避マネーが流入し始めたのだ。イールドカーブも極端に立ってきたから、投資家の長期的インフレ懸念があちこちで顕在化してきたね。

その点、同じ質への逃避の対象資産である金は、もっぱら商品全体の総売りと(相対的)ドル高に引きずられた。一時は1330ドルまで売り込まれたが、米国債と同様に、引けにかけては質への逃避マネーが流入し始めている。

と、まぁ、語ってきたが、総じて、これまでの急騰の調整に尽きるね。セミナーで繰り返し述べてきたように、あんな上げがいつまで続くはずもない。売られたといっても金価格はまだ1340ドルという歴史的高値圏。

QE2(量的緩和第二幕)のトークを囃して株も商品も買い上げられ、いよいよ先週金曜日にQE2の第一弾の国債買い取りが実行された途端に、総売りに転じた。まさにニュースで売る展開。お腹いっぱい買いポジションを膨らませたファンドにとっては、中国引き締めが格好の利益確定売りの口実を提供した感もある。

この後だが、下には、ドンと新興国のインフレヘッジ買いが待ちかまえている。アイルランド危機の噂で売って、ニュースで買い戻す展開だって、プロの手口としては考えられる。そして、ドル高といっても悪いドル高。昨日書いたリーマンショック後のケーススタディーが現実味を帯びてきた。

今日は、東京商工会議所で金、プラチナ、シルバーについての講演後、夜は日経スタジオで公開収録。ブログ読者やツイッターフォロアーの皆さんが観衆。タイミングとしては実に面白い時期になって、やる気むんむんです(笑)。(さいわい??)急落してくれたので、釘刺しジェフも、胸張って、強気論語れます。

2010年