豊島逸夫の手帖

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量的と質的な食糧危機

2011年1月14日

昨日は豪州の豪雨の話であったが、世界の異常気象が穀物価格急騰に波及していることも最近の話題である。同じ南半球でも、アルゼンチンやブラジルは「少雨」により不作が見込まれる。ただでさえ需要面で新興国の生活水準向上とともに穀物需要は高まるばかり。西洋風の肉食傾向が強まり、肉の需要が増加しているので飼料需要も高まり、その原材料であるトウモロコシの需要も増える。

その結果、米国のトウモロコシの需要に対する在庫比率は5.5%と15年ぶりの低水準。さらに新興国の中流階級が揚げもの用油を頻繁に使うようになり、植物性油の需要も増加。この植物性油の需要に対する在庫比率も1970年代以来の低水準に落ち込むという。

ただし、今回の穀物価格から連想される食糧危機は「異常気象」という不安定要因を囃して 商品先物投機筋が買い上げている面も強いので、もし雨量が通常に戻れば一斉に売り手仕舞いが入る可能性もある。

それから筆者が注目するのが「量的」な食糧危機に加え、「質的」な食糧危機。直近ではドイツの豚肉、鶏肉、卵にダイオキシンが検出され、韓国や中国がいち早くドイツからの鳥、豚関連食品の輸入禁止に動いている。汚染卵はすでに欧州諸国のスーパーマーケットで販売されていたという。その原因を辿ると、3000トンの汚染植物油が150,000トンの飼料製造に使用されていたこと。バイオディーゼル(生物由来油を使う燃料)を使う火力発電所からの廃棄油が混入したという。(産業用植物油と食用植物油の境界線が曖昧だったようだ。)

このような事例から規制強化による供給減少も無視できない。これが「質的」食糧危機である。

さて、穀物価格急騰により卸売レベルではすでに価格上昇の兆候が出始めたことが、昨晩発表の米国卸売物価統計で確認された。12月に1.1%上昇。事前予測0.8%を上回ったのだ。こうなると、いずれ消費者物価にも波及してゆくことが視野に入る。

バーナンキさんは「インフレが0.7%と異常に低過ぎるから、適正インフレに戻すために追加的量的緩和を実施する」と述べてきたわけだが、果たして食糧危機がQE2縮小のシナリオとなるか、注目している。

足元の金価格は、昨晩、新規失業保険申請者数が445,000人と事前予測(405,000人)を大幅に上回ったことで一時1395ドル近くまで買われたが、スペイン国債入札堅調などに起因する欧州財政危機後退予測が浮上して結局売られ、12ドル安の1375ドル。

プラチナは、過剰流動性の出遅れ銘柄、循環物色の流れで、10ドル上昇して1800ドル。引き続き金銀が売られやすく、プラチナ、パラジウムが買われやすい展開。

外為ではユーロが1.33と高騰。急激なドル安になっているのでドル安なのに金安という結果になっている。

ドル高、金高の局面も頻繁に生じており、今年の金価格はドルとの連関が薄れている。これまでのドル安―ドルの代替通貨として金買いという枕詞は、頭の中のハードディスクから消去。

2011年