豊島逸夫の手帖

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G2サミット

2011年1月20日

米国のトップニュースは、コキントウ主席の米国訪問。そこで報道を拾い読みしていると、いくつか筆者の注意を引くエピソードがあった。

まず、ドイツと中国のライバル関係。2009年に中国はドイツを抜いて世界一の輸出国になったが、2010年には中国は対ドイツとの貿易で170億ユーロの黒字を記録したという。ちなみにジャパンは中国、米国、ドイツに次いで4位。1-3位のトップ集団からかなり引き離されている。5位のオランダとの差のほうが小さい。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)どうするの?

中国メーカーのドイツ進出も顕著。たとえばSONY、ならぬ、SANYという中国企業。機械メーカーらしいが、コロン郊外に工場と研究所を設立中。そこで雇用されたエンジニアたちが、コロンの元トヨタF1チームメンバーなのだ。2009年当時のニュースを読み返してみると「トヨタF1撤退を受け、ケルン本部のレーシング開発部門が500人の人員を削減。ケルンのセンターはトヨタのF1レーシングマシーンの全開発を担当していた。解雇された従業員のほとんどは約30カ国出身の高度にトレーニングを受けたエンジニア」とある。

また近年中国との経済関係が緊密化しているブラジルでは、ルセフ新大統領が、中国との通貨、貿易問題を、ブラジルのみならず新興国全体の問題と位置付け、中国首脳との交渉に臨むと発言している。

さらに豪州では鉱山業界が中国の「国家資本主義」に警戒感を露わにしている。当の米国でも依然中国警戒論が強いわけだが、コキントウも3兆円近くのボーイング機購入など、「おみやげ」持参を忘れない。人民元問題にしても、本音は人民元高のインフレ抑制効果も無視できない経済状況ゆえ、これまでより歩み寄る姿勢が見え隠れする。

さて、朝の20-30分でブログ更新を走り書きしているので、まだ読み通していないのだが、GFMSのアップデート2が届いた。とりあえず、2010年の世界金需給統計のトップライン(現時点での同社推定ベースゆえ4月に修正後、最終確定値になる)は以下の通り。

 2009年 2010年
供給
新産金 2584 2652トン
公的売却 30 需要項目に移動
リサイクル 1672 1654
 
需要
宝飾 1758 2037
その他(工業用) 658 702
公的購入   87
ヘッジ買い戻し 252 145
地金退蔵 212 455
ETFなど欧米投資需要 1406 879
 
金価格年平均 972 1224ドル
(ロンドン後場建値ベース)

なんといっても公的売却が公的購入に転じたことが目を引く。リサイクルは筆者の予測より増えず。前年を僅かながら下回った。日本に居ると売り戻しばかり目につくのだが、世界全体としてはそろそろ一巡の気配が見えるということか。

欧米の投資需要は前年を大きく下回った。それでも年平均価格が25.9%も上昇しているのは、新興国中心に宝飾需要が15.9%も増えた(盛り返した)ことと、これも新興国中心の地金投資需要が倍増したためと見る。まさに足元も、「先進国売り 対 新興国現物買い」 の構図である。

なお、1月11日時点のNY先物買い越し残高が前週比77.6トン減少して、551.7トンまで下がってきた。(明日発表の最新統計では更に減っていると思われる)。一時は800トンを超えていたわけだから、かなり玉整理が進んだと言える。地合いとしては新規買いが入りやすくなった感じ。

香港、ドバイなど、新興国現物市場渡しの金価格もロンドン渡しに比し大幅なプレミアム。市場内指標はいずれも強気を示している。

なお昨日は丸ビル21階のブルームバーグにて同社主催の機関投資家向け貴金属セミナーで講演。100名近くの機関投資家が参加。事務局がビックリしていたのは、応募者のほぼ全員が出席ということ。通常は「歩留まり」と称するのだが、応募数の6-7割出席が「業界の常識」。それが9割を上回るのは「常識外」。これで直ちに金購入というわけではないけれど、とにかく金市場について調べたいのだが、信頼できる情報が少ないので、という話が、セミナー後のカクテルパーティーでも数多く聞かれた。

2011年