豊島逸夫の手帖

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日本国債格下げについて

2011年1月28日

「金に何が起きているのか」52ページに以下のように書いた。

「『国債を売って金を買いたいのだが』。このような質問がセミナーでたまに聞かれるようになったのは民主党への政権交代後。子ども手当、高速道路無料化などの大盤振る舞いがメディアを賑わせたころからである。概算要求90兆円強に対して、税収は30兆円台に落ち込むとの見通しが流れると、この質問が頻繁に出るようになった。そしてギリシア財政危機。公務員給与カットなどで暴動に近いデモの映像が日本のメディアにも流れるや、一挙にこの質問は切迫感を持って発せられるようになった。
日本の国債は『浮動株主』の外国人投資家ではなく、『安定株主』の日本人投資家により保有されているので、すぐに格下げとはならない。欧米市場では日本の財政問題は、family issue=家族内の問題とされているのだ。すなわち、国全体としては900兆円の借金があるのだが、日本人個人投資家は1400兆円の金融資産を保有しているので、日本国として国債の債務不履行に陥る可能性は低い。いわば、親が900万円の借金を積み上げたが、子供が1400万円を貯金しているから大丈夫という発想である。
しかも、高齢化が進行する中で、1400兆円の金融資産は徐々に取り崩されていく。しかし、国債残高は減らない。そうなると、いずれ外国人投資家に日本国債を購入してもらうことになるやもしれない。そうなれば、これまで温室育ちであった日本国債が、一夜にして欧米投資家の厳しい評価にさらされる...。日本国債も待ったなしの試練を受けることになる。」

さらに、日経ビジネス1月3日号の「新金融立国日本」の中での一人一策では、「3年後の臨界点に備えよ」と述べた。個人金融資産と公的債務残高が逆転する臨界点のことである。

そして昨日のS&Pによる日本国債格下げ。これで直ちにマーケットがパニックになるわけでもない。国民が直ちに痛みを感じるわけでもない。しかし、この問題は糖尿病みたいなもので、自覚症状で痛みを感じないので、ついつい対策が後回しにされ、気がついたときには壊死状態ということになりがちだ。

ギリシアと日本は違うのは当たり前だ。怖いのは、日本のほうが国内の蓄えがあるから、先送りの余裕もあること。日本国債の8割以上は日本の機関投資家により保有されている。元はといえば個人投資家マネーだ。それをサラリーマン機関投資家が運用すると、人事ローテーションの中で、自分の担当の2年間だけは、とりあえず国債保有でつなぎ、次の担当にバトンタッチしてゆく。このような人事サイクルが繰り返されるなかで、数年後には「不運な」担当者が臨界点の危機対応に追われることになろう。

格下げは政策に対する警告とも論じられる。でも、この問題に「疎い」首相では政策対応も期待できまい。結局、この国は黒船に大砲を突きつけられるような外国発の切迫感が極度に高まらないと、国内がまとまらない。それを一番痛感しているのが国の台所を知り尽くした経済官僚だ。そのOBたちが、しきりに退職金で金を買いたがるという現象を筆者は何回も見せつけられてきた。

「金を買えば安心」などと言うつもりは毛頭ない。それはセミナーで筆者の話を聞いた方々は納得されていると思う。ただ金の世界にいると、人間の本音が透けてみえる経験を頻繁にする、ということだ。

明日の日経マネーナイトin京都、明後日の日経ホールでの日経プラスワンセミナーin東京、そして2月6日の同大阪会場で、さらに詳しく論じたいと思います。もちろん金価格の見通しも。これまではプラスワンセミナーの時期に新高値更新の巡り合わせばかりだったので釘刺しJeffのコメントに終始しましたが、今回は強気のJeffを披露できる市場環境です(笑)。

2011年