豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 宴たけなわメタルと宴の後メタル
Page1003

宴たけなわメタルと宴の後メタル

2011年2月15日

ユーロ売りが加速。1.34台をつけている。欧州市場でドル安ドル高のベンチマークとされるドルユーロのレートで見ると、ユーロ安ドル高ということになる。ユーロが売られた反対取引のドル買いゆえ、依然「悪いドル高」だ。昨日はオバマ予算教書で米財政赤字最悪の1兆6450億ドル(2011年度)、1兆1010億ドル(2012年度予測)というドル売り材料も出た。しかしマーケットは欧州財政危機の問題により強い切迫感を感じているのだろう。米国財政赤字の問題は筆者流に言えば「糖尿病とか高コレステロール」がまだ臨界点を迎えていない段階で、直ぐに痛みが感じられず切迫感が薄い。対してPIGS財政状況は臨界点に達している。糖尿病で下肢が壊死寸前という感じだ。

結果的にまたもやドル高、貴金属高の現象に。ただし投機マネーは銀、プラチナ、パラジウム、銅などに向かっている。(プラチナに関しては先物買い残高が膨張しているので、本欄では先日、表層雪崩注意報を発したが、昨日はUBSも同様の注意報を出していた。)とくに昨日は中国の輸出データ好調を囃して、宴たけなわ。

対して金の上げは鈍い。こちらは宴(うたげ)の後状態。NY先物買い越し残高がピークの800トン台から400トン台まで減ったところで、案の定、先週末発表の数字ではプラス49.4トンの519.7トンまで戻してきた。

宴たけなわのメタルを選ぶか、宴の後のメタルを選ぶか。

短期投機マネーはモメンタムを追って前者。長期マネーはじっくり押し目を拾って後者。このあたりの話題は、明後日のシンガポールでのジム・ロジャースとの対談で取り上げてみようと思っている。最近、彼は金より銀と語っている。では中長期的にはどう感じているのかな。

今日は中国物価上昇データ発表に注目。米国巨額財政赤字、欧州財政危機、中国インフレと、主要国通貨は(日本円も云うに及ばず)いずれも大きな問題を抱えているが、まぁ、比較して見れば、やはり中国(人民元)に一番パワーを感じるね。どこまでそのパワーを人為的に中国当局が抑え込み続けられるのか。あとの3通貨は、相変わらずの弱さ比べで、いい勝負(実力伯仲かな...)。

なお、昨晩はドイツの地銀大手WestLBの不良債権問題が蒸し返された。日本同様に貯蓄性向の高いアリ組の国で、ありあまる個人預金を持て余しサブプライムに手を出して大やけど。今は政府とEUの実質管理下にある。その怖―い姑さんのEUを満足させるには、さらに3割の資産削減が必要との観測が市場に流れたのだ。EU委員会へ出す報告期限が15日。そこで示される対応が不十分とされれば、ドイツの金融監督官庁が同行の段階的解散に乗り出すかも、という外電報道である。

欧州財政問題関連では、イタリア国債入札。入札額は順調。しかし5年債の資金調達コストはリーマンショック以来最高の3.77%に跳ね上がった。といってもポルトガルの7.6%に比べれば、問題ない。さらにスペインよりもずっと良い。

それから2月10日付の本欄で、muni米国地方債問題について述べたが、そこで書いた一部米国人個人投資家のパニック売りに早速目をつけて、抜け目なく買いに廻っているヘッジファンドが現れた。Moore Capital Management と Oak Hill Advisors 。いずれも1兆円相当の運用資産を持つ。「10%を超すハイリスク・ハイリターン」に惹かれたようだ。muniを組み込んだ投信に解約ラッシュが発生し、換金売りを強いられたことも、ヘッジファンドにとっては Fire Sale (火事の後の家財叩き売り)で買いのチャンスと映る。英語でopportunistic trade と云えば、なにかそれらしい語感があるが、要はどさくさに乗じた売買ということだよ。唯一、同意できることは、米国地方債の値動きが米国国債や株式とは異なるというリスク分散効果かな。

最後に訂正。
昨日触れたWGCの最新需給統計発表は2月16日ではなく2月17日(木)でした。明後日だね。明日16日日本時間早朝には米国SECへの13Fでポールソンとソロスの金ETF保有残高(昨年12月末時点)が明らかになることは訂正なし。

2011年