豊島逸夫の手帖

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米雇用統計より中東情勢

2011年3月7日

毎度お騒がせの米雇用統計だが、今回は19万人増、失業率8.9%に改善と良い数字であった。前回の本欄に「雇用統計が良ければ金は売られる」と書いたが、結果は大外れ。1410ドル台から1430ドル台まで急反騰となった。刻々進行するリビアなど中東関連の地政学的要因が米経済要因より勝るという展開になったのだ。

さまざまな複合要因が絡み合って金価格の長期上昇トレンドが形成されているわけだが、先週金曜日に関していえば、雇用統計好転という売り材料が出ても、中東緊迫という買い材料が相場を支えるという複合要因の根強さを見せつけた格好だ。

なお、米雇用統計好転に株や為替のマーケット全体が反応薄だったのは、結局、賃金上昇にまでは波及していないこと。さらに魚の目で見れば、結局は量的緩和マネーが回収されたときに、果たして雇用改善が維持できるかという、sustainability=持続性に大きな疑問符が付くからであろう。筆者流に言えば、ステロイドを抜いたときに、症状がぶり返さないか。この試練を乗り越えないと米国経済本格回復のシナリオは描けない。

NY株式市場は、ここまで米国経済改善予測を先取りして買い上げてきたので、どちらかというと「噂で買って、ニュースで売る」の展開とも云える。

一方、中国では全人代2011。中期目標経済成長率が7%とやや抑えめの設定。ただし今年は8%程度。あくまでも目標数値であり、本当に7%に下げられたら、中国経済のバブルは弾ける。そこまで引き締める気は党にはサラサラない。

例えていえば、高速道路を120キロで突っ走り、一般道路に降りて60キロ走行になると、車内の感覚としては、あたかも止まったかのような強い減速感を感じるのと同じ。中国国内でも7%になったら、多くの経済活動が休止したかの錯覚に陥るであろう。日本など先進国から見れば、7%でも羨ましい数字であるが、格差是正を進め、巨大経済の成長モードを維持するには、アクセルを踏み続けねばならぬ。ブレーキを強く踏む(=金融引き締め)ことは出来ない。これは日経マネー連載コラムでも、現地発の感覚として、中国引き締めでマーケットが売られる度に、筆者が繰り返し述べ続けてきたことでもある。

メディアでも3月3日の日経社説「物価と政治に揺れる新興国経済モデル」の中で、"中国の矛盾も深い。インフレ抑制のため引き締め策を進めるが、失業増への懸念もあって大幅な金利引き上げに踏み切れない」と冷静に分析されるようになってきた。

なお、金関連で拾った話題。ユタ州が、金貨銀貨を法定通貨として認めることを法制化。すでに13州に同様の動きが拡散中との米国CNBC報道。実態は薄い話だが、ドル札に対する不安を象徴するような出来事としての話題性はありそう。↓
http://www.cnbc.com/id/15840232?video=3000008628&play=1

さて、今週は日経CNBCに2回出ます。まず本日のデリバティブ番組(夕方5時から生放送、夜8時すぎ再放送)で史上最高値更新後の金価格について。それから3月9日水曜日には、シンガポール現地発の「ジム ロジャーズが語る世界経済と金」と題する特別番組の生放送が夜9時から。↓
http://www.nikkei-cnbc.co.jp/program/special/1103_gold.html (現在公開されていません)


それから3月12日土曜日には、東証IRフェスタというイベントに呼ばれ講演します。史上最高値更新後、初の講演なので、今後の見通しなどじっくり語ります。会場は有楽町の東京国際フォーラム。↓
http://www.tse-irfesta.com/summary/c6-3-2.html (現在公開されていません)

なお、講演の前後には、出展企業の三菱UFJ信託銀行とかステートストリートなどETF関連ブースを借りて、ブロク読者との交流も出来るので楽しみにしてます!

2011年