豊島逸夫の手帖

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米国国債見通し下げの衝撃

2011年4月19日

昨晩10時過ぎ。それまでジリ安気味だった金価格が瞬時に10ドル棒上げして1500ドルに接近。眠気もいっぺんに覚めた。火付け役はS&P社。米国債格付け見通しを「安定的」から「弱含み」に下げを発表したのだ。2年以内に引き下げる可能性が1/3という。

ただでさえ、ねじれ議会で予算案が難航し、一時は政府閉鎖の可能性までちらつき、土壇場の妥協で回避したばかり。これは効いた。

NYダウも一時200以上下げ。

ただ、肝心の米国債には、さした動きも見られず。外為市場ではドルが対ユーロで下がるどころか反騰。

米国債に関しては、ただちにAAAがAAに格下げになるわけでもなく、慌てて売りに走る切迫感はない。米国債に雨宿りするマネーは「安全性」に加え、「巨大な流動性」の安心感を求める。「流動性への逃避」である。とくに機関投資家の話だが。

ドルの反応に関しては、すでに米国政府閉鎖とかECB再利上げなどを囃して、大量の投機マネーがドル・ショート(空売り)に走っていたので「噂で売って、ニュースで買う」みたいな展開になった。

そして金には「質への逃避」マネーが集まる。「質への逃避」の対象としては、これまで断トツに米国債であったが、その「駆け込み寺」も危うくなってくると、金が相対的に浮上する。

昨晩は、たまたま投機マネーの手仕舞い買いでドルが上がったが、米国債格下げは、魚の目で見れば、ドル不安、ドル下げ(=金買い)の材料である。

ただし、昨晩の値動きはヨーヨーみたいに荒かった。足元ではリビア、福島の材料は陳腐化して、欧州と米国の財政政策、金融政策に焦点が絞られてきた。本欄4月1日に書いたように、Xデイはイースター明けの4月27日。FOMC声明と、初のバーナンキ四半期記者会見である。そしてギリシア債務再編の行方。中国利上げは、これも狼少年みたいになって材料としては、さほど効いていない。QE2終了を見込んだ売りが出る状況も考えられる。

考えてみれば、はや4月。そろそろ本欄の長期読者ならお馴染みのSell in May and go awayの季節になった。日本のGW中は荒れそう。

さて、2010年7月20日付け本欄「米国大学基金も金へ分散運用」で以下のように書いた。

(以下、引用)
UTIMCO(University of Texas Investment Management Co)はテキサス大学資産運用会社で、運用総額は160億ドルと兆円単位にのぼる。そこが5億ドルを金先物で運用中と公表した。限月も分散させて、tactical allocation(戦術的アロケーション)というから、短期売買を重ねているようだ。(ちなみにstrategic allocation=戦略的アロケーションとなるとポールソンのように1年以上にわたり保有することになる)。金分散運用の理由は、「インフレヘッジ」。「主要国の財政規律、金融節度欠如による金融資産への信頼低下」と明確である。最近コメックスで大きな注文が散見されていたのは、この人たちだったかと、個人的には合点
(引用終わり)

この大学基金の運用資産は、その後199億ドルにまで増えた。これはハーバード大学基金に次ぐ第2位の規模だ。そして、昨年買った5億ドルの金の価値が、今や9億8700万ドルになったという。この金は先物で運用されていたわけだが、このたび全量を現引きしたと発表。COMEXからの現引きなので、100オンスバーを6643枚とのことだ。HSBCのNYの金庫に保管。

「中央銀行は紙幣を刷り続けているが、その購買力はどうなるのだ。金は刷ることが出来ない通貨だ」とは担当者のコメント。

通常、COMEXでの現引きは稀だ。建玉の0.5%程度。それも個人の富裕層がほとんどである。

最後に昨日告知した復興支援セミナーin博多ですが、「少数精鋭」と書いて尻ごみする方もいたので、誤解ないように説明しておきますが、あくまで少人数で家族的に和やかにやりますよ、ということです。ご心配なく(笑)。

2011年