豊島逸夫の手帖

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早くもSold in May

2011年5月6日

株も商品も総売り状態。NY株も新興国株も売られ、債券だけ上昇。口火を切ったのが銀。連休前の本稿執筆時点から始まっていた銀暴落が昨晩ピークに。一日で12%近い下げ。金も連れて下げ(2.7%)銀は34ドル台。金は1470ドル台。ここ4日間で銀は29%下げたことになり、これは1983年以来のこと。

Sell in Mayと書き続けてきたが、ここまで早いとはねぇ。銀下落が加速した最大の理由は、CME(取引所)の証拠金引き上げ。異例の5回連続で、4250ドル→18900ドル→21600ドルと相次いで引き上げられた。このマージン引き上げで一番打撃を受けるのが機関投資家ではなく個人投機家。銀先物でレバレッジを効かせて銀で一儲け見込んでいた人たちが追加証拠金を払えず、やむなく金、原油など他の商品先物の契約も手仕舞い。お馴染みのリスクの連鎖。劇場のシンドロームである。

このような取引所の規制で下がることは、ハント兄弟の時に筆者がトレーディングの現場で自ら痛い目にあったので、以前にも警告していたこと。

(以下引用)
金の場合は10年かけて段階的に上がってきたが、銀は最近になって急にブーム的な棒上げ。まさに銀バブルの様相で中期的に逆V字型の展開を連想させる。 過熱した市場にポジション規制、証拠金引き上げなど取引規制が入るリスクも無視できない。 ハントの買い占めによってついた史上最高値から見れば割安との囃しに乗って無邪気に買いまくる個人投機家の姿が痛ましい
(引用終わり)

とまで書いたが、当時はシルバーパーティー宴たけなわのときでもあり、盛りあがりに水をさす存在と業界から疎まれたことを思い出す。相場の取引ハードウエアーは電子化されたが、相場の本質は全く変わっていない。喉元過ぎれば熱さ忘れる、の繰り返しである。

さて金価格。こちらは前回1560ドルの時点で異常な上げに釘刺したが、1470ドルとなると釘刺しは解除。円高も進行しているので円建て金価格には値頃感を感じる。史上最高値には恐怖を感じるが、急落すると安心感さえ覚える。この調整売りが無ければ長期上昇トレンドは覚束ない。実質金利がマイナスに留まる限り金の高値圏は続く。

金関連では新材料が二つ。

まず、ソロスが金銀を売却という報道。金はETFで14トンほど保有しているので、どの程度処分したのか不明だが、観測記事とはいえ市場心理には影響を与えた。

次にメキシコ中銀が1-3月期に100トンもの金を購入していたことがIMF統計で明らかに。さらにタイ中銀も約9トン購入。ロシアも3月に18トンと多量の金購入。公的機関の金買いが続いていることを裏付ける統計である。とくにメキシコはマーケットでは全く想定外のサプライズ。これで南米諸国の金買いの可能性が広まった。

虫の目で見れば、risk-offで、ドルキャリー金買いの巻き戻し。鳥の目で見れば、ドル不安が外貨準備で保有されるドルにも波及し、ドル売却、金購入の流れが続く。

同じく長期保有の中国インドなど新興国も1500ドル割れでは買いを入れること必至。また現物不足に陥っても不思議ではない。すでにインドでは今週に入り、5月の祭礼需要期とも重なり、記録的な量の金買いがムンバイから報告されている。

さて、マーケット全体では、昨日の米国新規失業者保険、一昨日の民間ADP雇用統計、さらにISM景況感指数など、相次いで予想より遙かに悪い数字が続出。今日の雇用統計も185000人増と、控え目な数字が事前予測で出ており、ある意味でそれを織り込んだNY株下落とも云える。従って、サプライズがあるとすれば、予想より良い数字が出た場合であろう。

米国経済に関しては、不動産市場がついにdouble bottom(二番底)に達したとの観測も浮上している。Underwater=保有住宅時価がローンを下回るケースが加速している悪循環。

それからビンラディン除去もあった。米国ではテロへの勝利をオバマは強調し、愛国心から国民にはVサインも目立つが、欧州系の報道は報復テロを警戒し、冷めている。この材料を地政学的リスク後退と結びつけるのは楽観的に過ぎよう。とくに筆者は、パキスタン―中国組とインド―米国組の対立構造の行末に注目している。

ドル円は80円割れの局面も。円高というよりグローバルなドル売りの一環なので、協調介入あるかないかがポイントであろう。野田大臣は、今回は違うと発言しているが、さて、本音は。

それからインドが0.5%の幅で利上げしたことも材料視されている。新興国株が軒並み売られている。こうなるとマネーの流れで買われているものは、米国債。通貨でいえば(虫の目で見れば)ドルと円。

ユーロについてはECBトリシェ総裁が昨晩の記者会見で、strong vigilante(インフレを強く警戒)という利上げ直前の決まり文句を口にしなかったことで、6月の再利上げ観測が後退。ユーロが一転売りモードになった。この、足元での消去法的ドル高が、株、商品売りの大きな要因にもなっている。

なお、ポールソンは保有金を売っていない模様。彼の考えでは、これからのインフレに対するヘッジだから売るはずもない。ジムロジャースは、さすがに銀の急速な上げに警戒感を持ち、下落予測をコメント。ユーロには強気である。FRBよりECBのほうが真剣に通貨価値保全に動いていると評価。

ということで、今年の連休も最大級のマグニチュードでマーケットが揺れています。まだまだ大きな余震が続くでしょう。

筆者は4月が仕事漬けだったので、連休中はストイックな自主トレで徹底的にカラダ作りに励み締まりました。絞り込んで体調パーフェクト。これをマーケットではなくスポーツの場で発揮したい(笑)。

ちなみに近くの公営フィールドアスレチックが入場料360円で最高のトレーニングの場。ところが当然、子供連れが圧倒的。サングラスした変なオッサンが黙々とトレーニングしているので、同伴の父兄たちからは相当怪しいという視線を痛く感じました(笑)。

2011年