豊島逸夫の手帖

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ユーロが台風の目

2011年5月16日

シンガポールに来ている。ふたたびジムロジャースとの対談(CNBC)のためだ。前回好評だったので、今回は、とくに震災後の日本に関して日本株の評価など聞きたいと思っている。そして現在進行中のコモディティー・クラッシュについても。

金市場では、アジア時間帯のOTCインターバンク取引の中心がシンガポールにシフトした。現地に来てみると、今回の安値で記録的な実需が、とくにインド系、次いで中国系から入っている。インドはそもそも5月が祭礼期に当たるので、季節的にも金製品が集中的に買われる時期と安値が重なって記録的な買いとなっている。

さらに銀現物に対する引き合いも強い。インド、中国が銀の世界でも存在感を強めている。Poor man's gold(貧者の金)と云われるごとく、新興国の庶民にも手が届く貴金属投資ということだ。中国の銀行でも富の浸透が薄い内陸部でも銀コインなら売れる。上海黄金交易所(SGC)でも銀が人気で、いまやSGCの出来高が国際相場に影響を与えるほどになった。上海金銀交易所(SBSE)と改名したほうがいいかも(笑)。

そんなわけで、毎度のことながら、デフレで金よりキャッシュの日本からアジアに出ると相場には強気になってしまう。欧米はと見れば、金銀含めコモディティーはほぼ売り一色と云っても過言ではない状況だ。「新興国買い VS 先進国売り」というお馴染みのレンジ下値圏でのせめぎ合い。この話は、日経電子版「金のつぶやき」に「米中ゴールドウオーズは中国が全勝」というようなことを書いた原稿を送っておいたから、今日中にはアップされるのではないかな。
日本経済新聞(www.nikkei.com)のマネーページです。

マーケット全般を見れば、危機再燃をキッカケにユーロが売り込まれたことで、結果的にドルが買われ、これまで市場を席捲していたドル安、ドルキャリー、株買い、高金利通貨買い、商品買いの巻き戻しが加速した。

さらにドル売りの強烈なモメンタム(勢い)に乗ってひと儲けを目論んだ投機筋も梯子を外された形で、ドルショート(売り)をカバー(買い戻し)に走っている。ドル売りポジションにしても商品買いポジションにしても、膨張しきったところで反動が起きている。

1-3月期のドイツ、フランスの経済成長率は、それぞれ1.5%、1%と好調なので、ECBトリシェ総裁も7月の理事会では利上げしやすくなる環境なので金利差によるユーロ買いが生じても不思議ではないのだが、マーケットは無視している。(台風の目のユーロに関しては、イタリア出身のECB新総裁が今年後半の注目点なので、今週末発売の日経マネー本誌の筆者コラム「国際経済を見る目」で詳説した。)

そして相対的に買われているのが米国債。ジム・ロジャースも前回は米国債ショート(売り)と語っていたが、どうなっているかな。多くのヘッジファンドもトレジャリー・ショート(米国債売り)に走って結構やられている。「安全性への逃避」ではなく、「流動性への逃避」なのだね、いまのトレジャリー買いは。

マクロ経済的には、スタグフレーションの可能性が語られ始めた。たしかに一理ある。資源高=物価上昇は避けられない。しかしギリシアのデフォルトとか、金融引き締め過ぎ(オーバー・キル)によるバブル破たんとか、米国不動産市場の二番底宣言とか、ひとつ金融政策のかじ取りを間違えれば、デフレっぽい匂いも漂う。

インフレの温暖前線とデフレの寒冷前線が交錯したところが欧州なので、そこに突風やら集中豪雨の異常気象が生じてユーロ乱高下が台風の目になっているということでもある。

スタグフレーションというのは全員負けのシナリオだから厄介。すべてのアセット(資産)クラスにとって何もいいことない。ひたすら生活水準落として、耐えるしかない。好調の新興国経済だってデカプリング(非連動)ではなくリカプリング(連動)は避けられまい。そうならないことを祈る。

ところで、シンガポールでは日本のラーメンが人気。博多の一風堂とか日本ラーメン・ブランドが進出しているのだが、一杯1000円くらいで博多より高い!それで日本人駐在の御用達かと見れば、客の大半はOLなど現地の方々である。シンガポールでは宗教的な理由で豚肉を食べられない人たちも多いから、メニューに子ブタちゃんマークがついていたりするのだが、ラーメンのチャーシューに関してはどうなのかな。

昨晩のディナーは、パラナカンというマレーと中華のフュージョン。その昔、英国植民地時代のインドにゴム栽培で駆り出されたクーリーという福建省などの出身の中国人労働者がマレー半島に移り住み、現在の一大華僑勢力となった。リークアンユーもその子孫。彼らの料理がパラナカンと呼ばれる。筆者には、ちと辛い。ぶっちゃけ、オーソドックスな広東料理のほうがいいな。デザートのマンゴ・プディングが美味かった♪

それにしてもシンガポールは年中暑いから、エアコンで室内を冷やすのが最高のおもてなし=hospitality、なのかな。とにかく冷やし過ぎ。毎回セーター持参を欠かせない。とくに室内で長時間会議するときは。OLには、デスク下にヒーターを置いている子もいる。日本の節電=社内温度焦熱地獄とは別世界。日本企業の職場は詰め込み過ぎでもあるけどね。

2011年