豊島逸夫の手帖

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ホッと一息

2011年10月28日

ホッと一息。株も商品も買い。
最悪の突発的デフォルトだけは避けられた。未だ予断許さぬが、いつまでもおカネを避難モードで寝かせておくわけにもゆかず。ぼちぼち売られ過ぎたものから買い直すか。という気持ちの、おっかなびっくりの新規買いがボチボチ入り始めた。
一方で、最悪の状況を想定して空売っていた連中は、一斉に撤退モード。手仕舞いの買いが続く。
マーケットでリリーフ・ラリー(relief rally)という状況だ。リリーフといっても野球の投手のことではなく、安堵した心理を表す単語だ。

ここで、今後のマーケットのリスクを纏めてみよう。
まず、欧州債務問題関連。

―そもそもキリギリス組のギリシャが反省して国民性をアリ組に転換できるか。まぁ、できるわけないよね。キリギリスとアリの異なる文化、民族が寄り合い所帯で使うおカネは同じにしたけど、台所は各自別々。EU財務省がEU共同国債を発行するという欧州合衆国構想にはほど遠い。これが根源的問題。

―ギリシャの借金を半分に棒引きすることにしたけど、貸し手側が同意したわけではない。(貸し手の同意なしに棒引きを強行したら、これこそハード・デフォルト=無秩序な債務不履行となってしまう。)更に、棒引きに応じる貸し手の多くが民間の銀行。そこで、欧州の銀行はおカネを用意して積んでおかねばならない。その額が、自己資本9%以上持ちなさいという設定だ。そこで資金調達手段としては、まず増資。でもこの株式市場ではまず無理。となれば貸しているおカネを回収する。借り手はいきなり融資を止められ「信用収縮」状況が生じる。

―もし銀行が自分で資金調達できなければ、各国政府が自分の国の銀行には公的資金を投入して支えなければならない。そうなると、例えばフランスは財政赤字が更に膨らみ、トリプルAの格付けを維持できなくなる。

―最後の手段は、EFSF(欧州金融安定基金)に駆け込み緊急融資を受けること。欧州各国が出資して、いざという時に使おうと創設した機関だ。でも、基金の絶対額が足りない。結局、ドイツ・マネーに頼らざるを得ない。更に、チャイナ・マネーにも冥加帳を廻すことになる。中国側は「いいですよ。お困りのご様子。協力しましょう。但し、条件として、うちの人民元政策にもあれこれ口出ししないでね。人権問題も騒いでほしくない。ダンピングなどといちゃもんもつけないで。」ということになろう。

―借金棒引きは火事でいえばとりあえずの消火作業。次に隣の高層ビルへの延焼を防がねばならぬ。その目的でECB(欧州中央銀行)がスペイン、イタリア国債を市場で買い取って国債が暴落しないようなオペレーション(操作)を実行中だ。しかし、これを続けると結局ECBがトランプでいえばババを全部引き受けるようなもの。(ECBの保有資産劣化。財務悪化。)そして、国債買い取りの代金としてユーロをばら撒き、市中から回収しなければ結局、米国と同じ量的緩和になってしまうので、お固いアリ組のドイツは猛反対。結局、ここでもEFSF(欧州金融安定基金)頼みとなってしまう。

―EFSFのおカネの出し方もアイデアの段階で、かなり怪しい。EFSFが必要資金の一部を積むから、その5倍程度のおカネを冥加帳廻してかき集めよう、或いは借金の連帯保証人になろう、というスキームなどが浮上。「レバレッジ方式」というネーミングからしてもヤバそう。

そして、もう一つのリスクが米国経済。
7-9月成長率が2.5%。しかも消費が好調、ということで、これもリリーフ・ラリーの材料に。
でも、前期比つまり4-6月期の年率1.3%から持ち直した、ということは東日本大震災で悪化した時期との比較なので、額面通りには受け取れない。家計貯蓄率が4.1%に低下、という数字も気になる。要は貯金取り崩して生活費に廻しているということじゃない。
それに2.5%という成長率は、失業率をなんとか9%に抑える効果はあるが、更に失業率を持続的に好転させるには力不足。

というわけで、未だ未だ安堵できる状況ではないけれど、米国債に逃避していたマネーは戻りつつある。米10年債の利回りは一時2%を割り込んでいたのが、2.4%にまで急騰中だ。これは債券価格が急落したことを意味する。
で、金は買われ続けた、ってどういうこと?
やはり、QE3期待 そして減速中の中国経済利下げ期待の過剰流動性相場の匂い。
来週以降のFOMC,そして米国雇用統計に注目。

2011年