豊島逸夫の手帖

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現地で感じる新興国隙間風

2012年1月20日

この1年間で5回目のシンガポール訪問中。いずれもジム・ロジャーズ邸訪問が目的なのだが、同時に、筆者は定点観測で新興国のマイクロ・コスモ(小宇宙)ともいえるシンガポールの空気の変化を嗅ぎ取ってきた。

一年前はホテルが満杯で予約とるのが大変。今回はホテル側からかなりのディスカウント提示。不動産バブルに舞い上がっていた友人も、苦い顔。
ショッピング・モールでも、富裕層の高額品購入買い控え傾向が顕著だ。一年前に比し、明らかにブランド物コーナーの客足が減っている。シンガポールには、今や、世界の富裕層マネーが集まりつつある。投資銀行もプライベート・バンキング部門を拡大してきた。(トレーディング部門も東京からシンガポールへ移す動きが増えた。ここでも東京市場の空洞化を感じる。)スイス系銀行が米国税務当局からの要請に屈し顧客情報開示に踏み切ったことで、欧州からシンガポールへ富裕層マネーが逃避しているのだ。原油急騰に乗ったロシア人の姿も街中に目立つ。

しかし、欧州発の投資家リスク回避傾向がジワリ、シンガポールにも波及。まずは消費も様子見。投資も様子見である。しかし、ひとたび投資経済環境が好転の兆しを見せれば、ムズムズしていたマネーのストックが一斉に動き出すは必定。新興国経済の腰の強さも実感している。「バブルの破たん」という言葉が象徴する新興国経済の崩壊シナリオなど極めて非現実的と思い知らされる。

さて、ショッピング・モールから次の定点観測は商売柄、インド人街(リトル・インディア)。

1133.jpgこの写真は、リトル・インディアにズラッと並ぶ金宝飾品店舗のひとつ。大振りのインド人花嫁用ゴールド・ネックレスのコーナーの隣に「MONEY CHANGER」(両替商)の窓口がある。インドでは金が価値保存交換手段であることを物語る光景だ。
しかし、1年前に比し、店の賑わいが微妙に静かになってきたことを肌で感じた。店主曰く「今年に入ってよく売れてはいるのだが、伸びがないのよ。今年は昨対で通年プラスは厳しそう。」

たしかに、中国人街でも、春節直前で大賑わいなのだが、今年は、暦の関係で一月末に早まり、「短期決戦」を強いられている。クリスマスと春節が消費を食い合った感もある。春節後の反動が気になる。

新興国に吹き始めた隙間風。それを敏感に感じている現地の人たち。ジム・ロジャーズもこの一年間、一貫して「新興国株はショート=売り」の姿勢だ。住まいを米国からシンガポールに移したほどで新興国市場ではアイコン的存在の彼だからこそ、隙間風のヒンヤリ感を感じる機会も多いのだろう。

来週は、その隙間風の風上にある南欧を訪問する。

2012年