豊島逸夫の手帖

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どこまで下がる 金価格

2012年4月5日

この2日間で1680ドル台から1620ドル台まで、ほぼ一気に下げた金価格。その下落要因を纏めた。

  1. 米国経済好転、追加的金融緩和策後退。FOMC議事要旨で追加的量的緩和論後退が確認され、QE3から派生する過剰流動性相場を当て込んで買っていた投機家たちが、イースター休暇前に一斉に売り手仕舞いに走った。
  2. 欧州債務不安再燃、スペイン国債入札不調。金も「リスク資産」とされリスク回避で売られる展開。欧州発リスク・オフの流れは、未だ終わっていない。更に外為市場でユーロが売られ、ドル高になったことも、金には売り材料。
  3. 中国経済減速懸念。可処分所得減少による金購入低下の可能性。更に、物価上昇率が6%台から3%台に鎮静化してきたことで、インフレ・ヘッジの金買いの必要性、そして切迫感が弱まっている。中国の買いは、これまで強い下値サポートとして相場を支えてきたが、今年は、その勢いに陰りが見られる。
  4. ケイ線的には、200日移動平均線を下回ってきた。大きな流れで見ればリーマン・ショック直後、リスク回避で大きく売り込まれた時以来の現象だ。

以上の下げ要因が共鳴して、負の連鎖を引き起こしている。
なお、昨晩はプラチナの下げもきつかった。本稿執筆時点(4月5日日本時間朝6時)では、前日比43ドル安の1597ドルと、金より一足早く1600ドルを割り込んだ。米国景気回復モードであれば、産業用素材であるプラチナは買われてしかるべきであるが、リスク回避モードの中では、ボラティリティー(価格変動率)の高さが嫌気されたのだろう。金・プラチナ価格逆転現象も容易に正常化せず。

さて、問題は金価格がどこまで下がるか。
本欄3月15日には「金から株へマネーの里帰り」と題し、こう書いた。
「中印に勢い欠く。新興国市場の現地の感覚としては、1600ドル前半から1500ドル台を狙っているようだ。従って、レンジの下値は1500ドル台まで見ておく必要あり。特に、今後、欧州債務危機が再燃して、先進国金市場でリスク・オフの売りが出ると、もう一段の下げとなろう。」
更に4月2日付けでは、「4月危機」を警告した。
「Sell in May=5月は売りという相場格言があるが、今年は市場が先読みして4月が売りになりそう」と書いた。
それが、想定のタイミングより早く、いきなりイースター前から顕在化してきたわけだ。
となれば、当面は、下値模索となろう。
例えば、仮に、バーナンキが明確にQE3に否定的なコメントをする。同時に、欧州では、フランス大統領選挙でサルコジ敗れる。ギリシャ総選挙では反緊縮色の強い連立政権が、ギリシャ救済合意白紙撤回。中国では発表される経済成長率が更に鈍化。このような極端なシナリオになると1500ドル割れも考えられる。
しかし、そこはすかさず買われよう。経済減速とはいえ、中国・インドの2カ国で、年間金生産量2800トンの5割以上を買い占める状況に大きな変化はない。新興国の買いは、文化的金選好度の高さに支えられ根強い。ただ、懐が寂しくなれば、購入価格には昨年より神経質になるということだ。
しかも、ゼロ金利の先進国と異なり、中国は金融政策に利下げの余地を残し、必要とあらば財政出動の余力もある。
米国量的緩和後退観測も、バーナンキの一言で、あっさり覆される事態が容易に想像できる。
欧州は、緊縮政策の影響で、景況感悪化のリスクが付きまとう。均衡財政と経済成長の同時達成は至難の業だ。昨晩も、ドラギECB総裁が「出口戦略の議論は時期尚早」と釘を刺している。欧州経済が更に悪化すれば、欧州版QE発動の可能性もちらつく。
年後半には、金価格も再上昇トレンドとなろう。

2012年