豊島逸夫の手帖

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ギリシャ選挙が鳴らす日本への警鐘

2012年5月8日

ギリシャ総選挙で、大連立を組んで財政再建を進めてきた二大政党の合計議席が過半数を割り込むという事態。選挙民は財政再建の痛みを頑として拒否の姿勢。なにやら日本の政局の近未来を垣間見たかのような印象だ。消費税増税という痛みを伴う財政再建策を巡り、与党が分裂の危機。新政党進出の兆し。財政危機打開に向けての国民的コンセンサス達成にはほど遠い。
ただ、筆者が現地アテネにおいて日本との比較で感じたことは、公的債務危機が完全に臨界点を超える惨状となっても、この国(ギリシャ)はまとまらない、という悲しい現実だった。
その点、日本の場合は、まだ臨界点を超える段階ではない。親の借金は子の貯金で返済できる計算が未だ成り立つ。(公的債務が1000兆円超えても、個人金融資産が1400兆円ほどある。欧米から見れば、日本の公的債務問題は「family issue (家族間の問題)」と片づけられる所以だ。)
しかし、公的債務が膨張し続ければ、早晩、臨界点を超える。東日本大震災でその時期が1-2年は早まったろうか。
そこで、ギリシャとの決定的な相違点は、臨界点を超える惨状になれば、東日本大震災後同様「がんばれニッポン!」の掛け声で、国全体が一致団結できることだろう。
ただ、逆に言えば、そこまで事態が切迫しないと国民がまとまらないということでもある。
歴史的に見ても、江戸沖の黒船から大砲を向けられるとか、広島長崎に原爆を落とされるとか、ギリギリの崖っぷちまで追い詰められないとこの国は変わらなかった。
今回は公的債務という経済の破局的事態が、崖っぷちギリギリにまで進行するまでは、ギリシャ的政治風景が日本でも繰り広げられるのかもしれない。
奇しくも、今、欧米市場関係者の間でfiscal cliff(財政の崖)という言い回しが頻繁に使われている。国家債務上限法のリミットに達した米国が、ブッシュ減税や失業手当給付延長の打ち切り議論に沸き、「財政赤字問題の崖っぷちに立たされている」という意味合いである。
日本の場合は、崖っぷちまで、まだ多少距離があると市場では見られている。(だからこそ、米ドルやユーロよりはマシという円高が示現しているわけだ。)しかし、早晩fiscal cliffの修羅場、即ち、国内消化で温室育ちの日本国債が、外海(欧米市場)の投機マネーの荒波に晒されるは必定の様相。
そのような修羅場となれば、日本国民は一致団結して「超緊縮」も受け入れるであろう。
そこで、個人の問題としては、危機の時期(1-2年と思われるが)を凌ぐ蓄えがあるか否かということ。
筆者がアテネで目撃したことは、その蓄えがある勝ち組と、無い負け組、言わば、イソップ物語のアリさんとキリギリスさんの残酷なまでの差であった。普通のサラリーマンだった人が、ゴミ箱を漁ることにもなりかねないのだ。
だから、若い読者たちには、1年間収入がなくても凌げる現金を蓄えておけと常々説いている。60歳まで1億円というような目標のハードルは高いが、1年分なら、達成可能な額であろう。
なお、ギリシャと違い、日本なら立ち直りも早いということをアイルランド訪問で確信した。このことは本欄2011年9月14日付け「アイルランドに見る国家破綻と日本への教訓」にて詳述しているので本欄下部のアーカイブで閲覧していただきたい。

2012年