豊島逸夫の手帖

Page1196 ギリシャの呪縛を脱して金急反発

2012年5月18日

本稿執筆時点(5月18日日本時間朝5時)。NY株式市場はフェイスブックIPOに湧いている。NY金価格は、ご祝儀というわけでもあるまいが、前日比38ドル高の1574ドルまで急反発。フェイスブックIPO価格38ドルとは偶然の一致だが、売られ過ぎ(oversold)気味の株・原油に先駆け、ショートカバー(買戻し)に入ったと見れば、先行指標とも言えようか。
さて、5月6日付け「リーマン後に酷似する安全資産・金からの逃避」では、リーマン直後のリスクオフ状態で金が21%暴落したことをケーススタディーに、今回のギリシャ危機に発するリスクオフで生じた金急落も史上最高値から21%下がるとすれば1500ドル程度とした。
その時点での金価格は1540ドルだったので、「かなりの底値圏」と表現した。
その後、欧州時間5月16日には一時は1520ドル台まで売り込まれたのだが、すぐに反騰が始まった。特に上げを加速させるキッカケになったのが、引け後に発表された4月のFOMC議事録。追加緩和論を「複数の委員」が支持とのくだりが伝わると金価格が跳ねた。3月のFOMCでは、「2-3人のメンバー」が追加緩和支持と表現されていたからだ。この微妙なニュアンスの差が「米追加緩和論(所謂QE3)メンバー増加」の観測を生み、「QE依存症」の金市場には願ってもないカンフル剤となったわけだ。その効果は、ギリシャ・リスクも覆い隠すほどであった。
そして翌5月17日(昨晩)は、ロンドン市場で1550ドルを回復。NY時間に入るや、製造業の景気指数悪化をキッカケに、一気に1570ドルに急騰し、一時は1580ドルを再突破した。
興味深いことは、その間、ギリシャ再格下げなど欧州危機関連の材料は引きも切らず。ギリシャのユーロ離脱論が市場を席巻していた。一昨日までの展開では、金がリスク資産として売られるはずである。しかし、結果論ではあるが、「安全資産」として復帰して買われるカタチになった。
金が経済危機に際して売られる現象は、リスクのピークでしばしば見られる現象なので、先読みがウリの金市場から見ると、そろそろギリシャ・リスクの陳腐化を示唆といえようか。
なお、昨晩の急反発はあくまでショート・カバー・ラリーである。先安に賭け空売り(ショート)ポジションを膨らませていた投機筋が、意外な展開の価格上昇に遭遇して、損切りの買戻しを強いられたに過ぎない。その証拠に、1560,1570と大台突破のたびに値が瞬間的に3-5ドルと大きく飛んで跳ねていた。
今後の最大の注目点は、買戻しラリーが一巡後、新規買いがフォローで出るかということ。
そこで懸念材料はインド需要の(短期的)落ち込みだ。
昨日発表されたWGC金需要四季報によると、2012年1-3月期のインド金需要が、207.6トンと前年同期比29%減を記録している。対照的に中国は、255.2トンで同10%増。当該四半期に関する限り、中国がインドを追い抜き、世界一の金需要国となったことになる。
2011年4月から2012年3月までの通年で見ても、インドが854.4トン(17%減)、中国は802.5トン(13%増)と一位二位が急接近している。この背景は、前回本欄で詳述したように、中国には規制緩和特需があること。インドは経済減速の影響をモロに受けたカタチだ。
足元でも、今週金価格急落にもかかわらず、中国・インドの買いが増えてはいるものの、いまいち迫力を欠くとの情報が現地から来ている。いずれ買うのだが、1500ドル割れを狙っているとの現地の見方もある。
従って、これで、今回の下げが「一相場終わり」とはまだ言えない状況だ。投機筋による短期下げの余震も想定する必要がある。
材料的には、ギリシャが6月まで水入りの成り行きだが、米国は6月にFRBのツイスト・オペが終了するので、超緩和継続の動きが出やすい。米マクロ経済データも足元では芳しくない数字が続いている。地合いとしては、FRBハト派有利の展開だ。
6月ギリシャ総選挙まで、ギリシャ関連とFOMC関連の材料が拮抗しようが、直接ドル安を招きがちな米追加金融緩和の影響が勝るか、という事を昨晩の金急騰は示唆しているようだ。
総じて、現在の安値圏を固めつつある段階と見る。

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