豊島逸夫の手帖

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有事の金より有事の缶詰

2013年5月1日

よく有事の金と言われるが、金は食べられないし、金塊でモノが買えるわけでもない。有事に際して、まず必要なものは飲食料品。そして現金。金など持っていても、当座の役にはたたぬ。
東日本大震災直後に被災者はまず缶詰、水などの緊急食糧に殺到した。次に、コンビニはいち早く営業を再開したが、多くの被災者は現金の持ち合わせがなかったので買えなかったという。
日本だけではない。
筆者が訪れた経済危機のアテネでも、同様の現象が生じていた。
スーパーで買いだめ、下がり続けるユーロでも現金がなければ今日の食糧も買えないので、ユーロ紙幣を退蔵していた。金製品は買い取りショップで売って、明日のパンの糧にしていた。有事の金は売って凌ぐのが本筋なのだ。
やはり極限状態になると、缶詰や現金に優るものはない。

その缶詰(魚介類)が一部で値上げの報道があり、値上がり前の買いだめが考えられるとの「総務省見解」が伝えられている。実際シーチキン・ブランドは5月1日出荷分から値上げするそうである。
日本ではアテネのような切迫感はない。
しかし、値上りが見込まれるときは、保存性の高いモノであれば、値上り前に買うという消費行動は至極当然の動きだ。
これこそ、アベノミクスが狙う消費者心理でもある。インフレ期待に訴え、明日より今日へ消費を前倒しさせることで、消費を活性化させる。
但し、この現象が過熱すると、1970年代に生じたトイレット・ペーパー騒動のようなリスクがある。
2%程度の水準で「安定的」に物価が上がってゆくことが望ましい。
ともあれ、この缶詰買いだめ現象。今後アベノミクスにより生じるはずの消費者行動のプロローグとして見ると興味深い。物価上昇が「買うなら、今でしょ」というような性急な反応の連鎖を誘発すると、「悪いインフレ期待」というかく乱要因になるリスクがある。
果たして「秩序あるインフレ期待」に収斂してゆくのか。気になるところではある。

2013年