豊島逸夫の手帖

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ソロス氏、次の標的は豪ドル売りか?

2013年5月8日

「ソロス氏が10億ドルの豪ドル売り注文を香港・シンガポール市場経由で出したようだ」
こんな噂が今週のアジア時間に市場に流れた。シドニー・モーニング・ヘラルド紙も本件につき報道した。
但し、このニュースは未確認である。「誰かが豪中銀利下げを見込んで豪ドル売りを仕掛けているようだ」との市場の感触はある。10億ドル=約1000億円程度の金額にしても、豪ドル市場を大きく動かせる量ではない。

ただ、ソロス氏は、市場の潮目が変化の兆しを見せたときに、いち早く動き、実績をあげてきたことも事実。
昨年11月の時点で同氏は円売りを仕掛け、約10億ドルの利を得たことは本コラム2月14日づけでも報じたところだ。更に、金暴落前に保有金ポジションを売却していたことが、これはSEC(米国証券取引委員会)への情報開示書類により確認されている。筆者の試算では、1400ドル前後で買い、1700ドル前後で売り抜けている。その後、金価格が、1600ドルから一時1300ドルまで急落したことは記憶に新しい。
このような実績があるだけに、10億ドル程度の豪ドル売りが仮りにあったとすれば、規模は大したことないが、投資家心理には極めて大きな影響を与えることになりやすい。

ここからは、筆者の私見であるが、7日にオーストラリア準備銀行(中央銀行)が理事会で政策金利を過去最低水準の年2.75%にまで引き下げたことは、グローバル・マクロ系のヘッジファンドにとっては、市場のトレンドに乗るタイミングとなったかもしれない。
豪ドルといえば、「資源国通貨」そして「中国連動通貨」として、この二年間は上昇を続けてきた。
しかし、資源投資ブームにも陰りが見え、中国経済は減速傾向となると、改めて、豪ドルの割高感が浮き彫りになる。
冒頭に触れたシドニー紙も、HSBCが豪ドルを購買力平価でみると世界で最も過大評価されている通貨としていることを紹介している。
また、現地の外為市場では、豪ドル売りが円売りと並び「今年最も注目のトレード」とされている。国際通貨投機筋の通貨売りの対象通貨が売られ過ぎ気味の円から買われ過ぎの豪ドルへシフトする兆しが顕在化すれば、アベノミクス相場にも間接的に影響を与えることとなる可能性もある。

なお、資源ブームの終焉という「新たな現実」への対応措置として、オーストラリア政府は、富裕層外国人の移住を奨励・促進させている。応募外国人は、まず同国に最長4年居住したのち、5百万豪ドル以上の現地投資を条件に、永住を許可される。対象外国人に制限はないが、実際には、多くが中国人である。
このプログラムで取得できるビザのIDナンバーは「188」という特別な番号だが、中国人を意識して、「888」という新たなクラスのビザも創設したとのこと。(888は中国人のラッキー・ナンバーだ。)
但し、この外国人移住促進計画は「自国民雇用」に対する脅威とも受け止められ、政治問題化している。更に、昨年は、中国資本による国内大手綿花農場の買収が許可されたことが、国内世論に警戒感を誘発している。
中国への輸出が減少傾向に転じたところで、チャイナ・マネーの取り込みを狙った政策であるが、豪ドルの上昇余地は限定的で、下落余地は充分にある状況に変わりはなさそうだ。

2013年