豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. NYに流布されるアベノミクス情報の危うさ
Page1409

NYに流布されるアベノミクス情報の危うさ

2013年5月9日

8日にニューヨークで大規模な機関投資家コンファレンスが開催された。2013年SOHN投資会議。18回目となる年次イベントだ。主催者側発表で約3000人という参加者は、ポートフォリオ・マネージャーから個人投資家まで多岐にわたる。
SOHNという組織は、小児癌研究支援を主目的とする財団。
スピーカー陣もデビッドアインホーン、ポール・シンガーなど著名ヘッジファンドの名前が並ぶ。

今年は、やはり「アベノミクス(もはや英語化した)」「日本株」と「円」がメイン・テーマのひとつとされ、誰がスピーカーで語るのか注目していたが、なんとカイル・バス氏が出て来た。過激な発言を繰り返しメディア露出が多い人物で、ヘイマン・キャピタル・マネジメントというヘッジファンドの創設者である。同氏は、サブプライム危機に勝ったファンドとして一躍名を上げた。サブプライム関連のCDSを購入することで5億ドルを稼いだことがメディアで報道されたからだ。その後、欧州債務危機にあたっては欧州周辺国国債のCDSを購入。そして、最近は、もっぱら「日本経済悲観説」を声高に唱え、時節柄、米国経済チャンネルなどで取材されることが多い。

8日の会議からも、まず「バス氏ドル円120円予測」というヘッドラインが流れてきた。しかし、その論旨は、日本国債急落による金利急騰、日本の公的債務膨張、日本経済空洞化などによる、悪い円売りである。「日本の老人たちは資産消失を経験することになる」などと過激な表現で語るので、一般メディアに引用されやすい。
主催者側も一般注目度が高いのでスピーカーとして招へいしたのだろうが、日本サイドとしては、もっとバランスのとれた人物に語ってほしかったというのが共通の気持ちであろう。

日本株の高値持続性については、足の長い外国人機関投資家マネーの流入を促進することが重要な時期だ。
個人的には、日本側の主催による大規模な日本株セミナーをニューヨークで開催することなどを考えるべきタイミングではないか、とも思う。間違いなく現地の参加希望者は多いだろう。筆者が外電に書いているコラムの閲覧者リストの国籍を見ても、ニューヨーク・ロンドン・シンガポール等々海外金融機関の名前が並ぶ。
来週、コネチカットのエール大学にシラー教授を訪ね、外から見たアベノミクスについて対談するのだが、その後にニューヨークに廻る。早速、現地の旧知の米国人市場関係者から講演依頼が来たのだが、しきりに「independent and balanced view=組織の色がついていない、バランスがとれた見方」ということを強調していた。やはり、「本音」が聞きたいのだろう。
日本株長期低迷の結果、欧米市場において日本市場そのものに関する知見が欠如している状況では、日本からの積極的な情報伝達を加速させる必要性を体感している。

なお、このバス氏は、金投資に熱心な人物で、テキサス大学基金に金を売らせたり買わせたりしている。「今の金価格低下は納得できない」と発言もしている。
その金価格は足元で一進一退。これだけ株が派手に動くと、投資家の目はやはり株のほうに流れるね。それでも、株の儲けで金を買う人が増えていることは間違いない。アベノミクスが失敗したときへの備えとして。
なお、来週、エール大学シラー教授との対談で米国へ行く前に、13日の日テレ系、夜9時からの「深イイ話」という番組に出ます。こちらは、エール大学とは全く「異次元」の世界ですが(笑)
もう収録済だけど、1時間番組の最初の紹介と最後の金の話で出るはず。出演者タレントが多数で会話が頭の上を飛び交っている感じの番組でした。

2013年