豊島逸夫の手帖

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QEなき世界に身構える市場

2013年5月23日

バーナンキ議会証言は二部構成であった。第一幕の「予定原稿読み上げの場」では「QE(量的緩和)縮小は時期尚早」との台詞にNYダウは150ドル高、米国10年債利回りは1.93%まで下落、ドル円は102円70銭前後まで円高に振れた。そして金価格も1380ドル台から一気に1416ドルまで急騰している。

しかし、第二幕の「議員との質疑応答」になるや、「マクロ経済環境次第だが、次回または次々回のFOMCで(in the next few meetings),資産購入縮小もありうる」と発言。これまで数あるバーナンキ証言を中継で見てきたが、super dove(超ハト派)と言われた同氏があれほど「QE縮小」について具体的且つ詳細に語るシーンは初めてである。第一幕ですっかり「QE継続モード」に入っていた市場にしてみれば、一瞬耳を疑うほどの「変身」であった。NYダウは一転80ドル安まで反落。米国10年債利回りは2.03%まで急反騰。ドル円は一時103円70銭まで円安に振れた。金価格も一時は1354ドルまで急落。
NYダウが前日比100ドル以上上昇後、マイナス圏で引けたのは2009年3月以来の事という。市場の狼狽ぶりがうかがえる事象である。

その間、第三幕もあった。NY時間午後2時に公表された前回のFOMC議事録だ。
多くの参加者(a number of participants)が6月にも資産購入ペース減速を支持、との表現が、第二幕のバーナンキ発言を確認する印象を与えた。但し、米国経済が充分に力強く、且つ持続的な成長を見せること、という条件つきだ。更に、緩和継続論も消えたわけではなく、まだまだ根強い賛成意見が示されている。
バブルを懸念するタカ派と、米国経済の脆弱性を懸念するハト派の間の鮮明な亀裂に、市場はとまどう。

しかし、昨年まではFOMC議事録でも、QE早期終了論はa few (2-3人)或いはseveral(4-5名程度)と表現されていた。それがa number of(多数の)と変化していることは、明らかに流れが「出口戦略」に向かっていることは確かだ。
QE依存症の様相が濃い過剰流動性相場にとって、流動性の点滴が外されることは、考えるだに不安になる要素である。緊急病棟から一般病棟に移ったばかりなのに、いきなり退院と言われたような心境か。米国を取り巻く外部経済環境も欧州・中国経済に不安定要因を抱え、いきなり外気にさらされ、病状がぶり返すリスクも頭をよぎる。

なお、第二幕でバーナンキ氏が、通貨戦争についての意見を求められ、日本についても言及している。これも異例の発言だ。黒田日銀の量的緩和を「我が国に比しGDPが1/3の国が、我が国と同等のマネタリーベース増加に踏み切るわけで大胆な政策だ。結果的に円安を引き起こしているが、デフレ脱却のためであり、BOJ(日銀)の政策を支持する」と言い切った。
バーナンキ氏が議会証言の場で、円安にお墨付きを与えたカタチなので、「FRBには逆らわない」シカゴ通貨投機筋への心理的影響は少なくない。

22日、日本では金融政策決定会合後の記者会見で、黒田日銀総裁の最近の長期金利上昇に対する発言で「歯切れの悪さ」が目立った。そして、同日の米国では、FRBの次の一手を計りかね、市場が揺れた。
市場は中央銀行に聞けとばかりに、オバマよりバーナンキ発言、アベよりクロダ発言が注目される展開だ。
出口が視野に入り、QEなき世界におののくNY市場と、新たなQEの入り口に立ち、異次元の世界に期待と戸惑いが交錯する東京市場の対比が鮮明である。

さて、金価格は結局1360ドル台で帰ってきた。QEに支えられ上昇してきた金市場にとっては、QEなき世界は不安である。
但し、QE縮小・終了は、米国景気好転を意味するので、プラチナやシルバーなどの産業用メタルにとっては、実需が増えるという意味で悪くはない。ただ、過剰流動性がプラチナやシルバーを買い上げる、というシナリオは成り立たなくなる。実需は増え、仮需は減る、という構造になる。
プラチナと金の値差も100ドル近くまで拡大した。(プラチナのほうが高い順ザヤ)。
円建てでは引き続き円安が国内価格を支える。

さて、今、朝にこれを書いているけど、爽快な気候だね~
梅雨前のさわやかな天気。仕事するなんてもったいない笑
この季節の木の緑は、まさに新緑という感じで好きだな。

なお、今週発売の日経マネー誌。
26ページからジムロジャーズとの金価格対談。
126ページから私のコラム。今回のテーマは、バブルムードに思う世代間格差。
このところ、マネー誌は月刊誌として異例の増刷するほど売れている。一般個人が動き始めたのだね。先日も近所の本屋さんのマネー誌コーナーで、残り少なくなったマネー誌を立ち読みしている人が、杖ついた80歳超えると思われる女性であった。かと思えば、知り合いの、ごく一般の人に、「アベノミクスって上がるらしいけど、今、いくらするの?」とか聞かれて、思わずのけぞってしまった。

2013年