豊島逸夫の手帖

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日本国に0.8%でカネ貸せるか

2013年5月29日

個人投資家は巨額の国債を保有しているから、日本国への最大の債権者といえる。
そこで、債権者の立場に立てば、利回りが0.8%前後の10年債を満期まで持ち切るということは、日本国に10年間、年0.8%の金利でカネを貸すということを意味する。アベノミクスが2年間で金利を2%にまで引き上げる非伝統的政策を採っているときに、10年間0.8%の固定金利で、巨額の公的債務をかかえる国にカネを貸す行為には、かなりの勇気(あるいは愛国心?)が必要だろう。

しかし、多くの個人は、銀行預金経由など間接的に国債を保有しているので、「債権者意識」が希薄だ。「国債暴落などの見出しは見かけるが、私は国債を持っていないから、大丈夫」という投資初心者が市井にはいかに多いことか。
直接的痛みを感じないと、政治問題化しにくいので、対策の優先順位も相対的に低くなりがちだ。

しかし、個人投資家マネーを預かり、集めて運用している機関投資家は、直接的痛みを感じている。
機関投資家にも2種類あって、バイ・サイド(買い手側)と呼ばれる(業界では顧客扱いの)年金基金や生保などと、顧客に売る立場のセル・サイドに分かれる。
バイ・サイドは運用が長期なので、イールド(利回り)によるリターンを重視する。「長期金利上昇リスク」といわれるが、安定的に金利が上昇すれば、イールドは高くなるので歓迎だ。しかし、国債価格が乱高下すると、国債価格そのものが下落して評価損をかかえることもある。
個人投資家の預金を、融資難から、国債で運用する銀行は、国債ディーリング(短期売買)による売買収益に依存する面もあるので、国債価格乱高下により思わぬ損失をこうむる。
そして、ダントツで国債の最大の保有者がゆうちょ銀行だ。かんぽ生命と合わせて国債全体の1/3を保有している。
更に、黒田日銀も積極的な国債買い入れ政策により、新たに発行される国債の7割を吸い上げている。

このような構造を不安視した機関投資家が、保有国債の一部を放出し始めたので、「長期金利上昇不安」が問題視されているわけだ。
それでも、機関投資家の国債担当者には、人事異動ローテーションの一環で2年ほどの任期を「とりあえずJGB(国債)保有で凌ぐ」というサラリーマン心理が働く。これまでも2年ごとに先送りされてきたが、今後は、任期中に金利上昇が臨界点に達するという「不幸な巡りあわせ」の担当者が出ることになりそうだ。但し、日本的組織では「運が悪かったが、よそさんも同じだ」ということで免責されるだろう。

最後のツケは個人投資家にまわる。だから、個人投資家は「自分だけは助かろう」と必死にもがく。しかし、機関投資家は「イベント・リスク」と冷静に説明すればよい。でも、本音では「JGB保有は気持ち悪い」と皆が感じている。
だから、その機関投資家の国債担当者がリタイアして自らの退職金を運用する立場になったとき、最も保有したがらない資産が国債だ。そこで、国債リスク・ヘッジのために金(ゴールド)はどうか、と筆者に相談に来る例などを見せつけられると、背筋がヒンヤリするものだ。

2013年