豊島逸夫の手帖

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円高へ潮目の変化の兆し

2013年7月29日

米国金融政策についての市場の関心が、「緩和縮小」から「引き締めへの転換時期」に緩やかに移行しつつある。

「緩和縮小」についてはFOMCでの決定時期が2013年9月か、12月か、2014年初か意見が分かれるが、「緩和逓減」への方向性は既定路線といっていいだろう。

しかし、利上げなどの「引き締めへの転換」の先行き見通し(フォワード・ガイダンス)については、失業率が6.5%を下回り、インフレ見通しがFRBの長期目標である2.0%より0.5%程度上昇することがthreshold(敷居)とされてきた。但し、その数値に達すれば直ちに引き締めに転換する引き金となる「条件」ではないことも、バーナンキFRB議長は強調してきた。米国経済が、その敷居をまたいでも、ただちに引き締めに転換するわけではないとも述べている。

マクロ経済指標の持続的好転が確認できなければ、基本的緩和路線に変更はない、というわけだ。

そこで、市場の反応としては、緩和縮小がドル高・円安要因であったが、引き締めへの転換に関しては、ドル安・円高要因となっている。その時期が2015年とされてきたが、経済指標が悪化すれば後ろにずれこむ可能性もあり、その間は、減量されても緩和は継続となるからだ。

ここで市場の流れを俯瞰してみよう。

5月22日にバーナンキFRB議長が、唐突に「緩和縮小が今後数回のFOMCで決定される可能性あり」との具体的スケジュールを明示した時には、世界のマーケットに衝撃が走り、株,金などが暴落した。あの日、あの時(日本時間深夜)、ネット中継で、バーナンキ氏が淡々と「緩和縮小スケジュール」を語り始めたときには、筆者も一瞬耳を疑ったほどだった。

マーケットの潮流は一気に「緩和モード」から「引き締めモード」に転換。「金融相場」を醸成していた量的緩和マネーの「減量」がマーケットのトラウマとなった。

そこで、FRBも市場とのコミュニケーションにおいて「偏ったニュアンス」を強調しすぎたと「反省モード」に入る。

緩和縮小実施は米国マクロ経済データ(雇用、住宅関連など)の持続的改善が前提であることを強調した「火消し発言」が地区連銀総裁たちから相次ぎ発せられた。

更に、バーナンキFRB議長も、「量的緩和縮小」といっても「緩和路線」は基本的に継続されることを強調した「ハト派的メッセージ」を繰り返すことで、5月22日のバーナンキ・ショックの衝撃の中和を計った。

マーケットも次第に冷静さを取り戻し、FRBによる毎月の資産購入額が現在の850億ドルから650億ドル、更に500億ドルなどと段階的に減額してゆくのであれば、これは、「金融引き締め」には当たらないことを理解し始めた。
外為市場では、引き締め=ドル高の流れが、緩和=ドル安へ潮目が変わり、ドル円も円高局面が増えてきた。
先読みする市場での注目点は、「緩和縮小」から「引き締め」開始の条件と時期に移行しつつあるわけだ。

これまで、FRBは、失業率が6.5%を下回ることが、引き締めに耐えうる米国経済の体力のバロメーターと見てきた。そして、その時期は、2015年となろう、とのメッセージを発信してきた。
しかし、失業率改善が労働参加率の減少によりもたらされる面も無視できなくなってきた。(求職活動を諦めてしまえば、失業者の範疇には入らないので、そういう諦め組が増えれば、失業率は下がって見栄えは良くなる、という現象のことだ。)そこで、引き締めに耐えうる失業率を例えば6.5%から6%に引き下げ、引き締めへのハードルを高くする案なども今週のFOMCでは検討される可能性がある。

このシナリオを著名FEDウオッチャーのヒルゼンラース氏が、ウオール・ストリート・ジャーナル紙で報じたときは、為替はドル安・円高に振れ、金価格は急騰して、1300ドルを突破した。
要は、仮に9月に「緩和縮小」が決まっても、購入国債の売却や利上げなどの「引き締め」開始までには、未だ、相当の「執行猶予」が見込まれるからだ。

今週はFOMC、米国GDP指数算定改訂、そして米雇用統計など重要な材料が目白押しの中で、「引き締めへの転換への道のりは長い」という市場の底流がジワリ、ボディーブローのようにドル安・円高要因として効きそうだ。

2013年