豊島逸夫の手帖

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シリア軍事介入なら米緩和縮小先送りも

2013年9月4日

自動車社会の米国では、原油高は増税と同様の効果を持つ。
そこで、もしシリアへの軍事介入が実施され、原油価格が120-130ドルまで急騰すれば(本欄8月30日付「シリア緊迫 どこまで上がる原油価格」参照)、FOMC(連邦公開市場委員会)による量的緩和縮小決定も9月から12月へ先送りされる可能性が強まろう。

シリア問題は、突発的な地政学的要因であるが、9月リスクの最大項目である緩和縮小にも影響を与える金融要因ともなってきた。
更に、オバマ大統領がシリア軍事介入について議会の承認を求める決断をしたことで、9日に再開される米議会がまず議論するはずであった連邦債務上限引き上げ問題が後回しにされる可能性もある。既にオバマ大統領は、同問題については、議会と「喫緊のアジェンダで、交渉の余地もない」と議会に承認を迫り、ルー財務長官も「10月半ばにも連邦債務が上限を超える見通し。手元残高は500億ドル程度で一日でなくなっても不思議はない額になる」と政府機能停止の危機感を露わにしている。

マーケットは、シリア情勢の展開に神経質に反応せざるを得ない状況が続く。
3日には、ロシアの通信社が、同国国防省の話として、地中海中部から東(シリア)に向けて2つの弾道「物体」が発射されたことをレーダーが探知したと伝え、市場は一時騒然となった。その後、米国とイスラエルが地中海で合同ミサイル発射したことが判明して鎮静化したのだが、予告なしのミサイル合同実験にはロシアも神経を尖らせる。既に、ロシア国防省は米国がシリアに近い海域に艦船を配備したことを非難している。事実、米国も既に配備の駆逐艦に加え、空母「ニミッツ」などが紅海に向け航行中であることを明らかにしている。
但し、プーチン大統領にとっては、余計な行動を起こさず、黙って傍観することが得策なはずだ。オバマ大統領が軍事介入という大胆な賭けに出たものの、イギリスは同盟国としての参加を拒否し、フランスは賛同の姿勢だが、国内世論は慎重論も強いので、オランド大統領もハシゴを外された心境だろう。更に、米国内でも議会及び世論の反対論が根強い。
このような状況下で、しかもスノーデン問題を機に米ロ関係が冷え込んでいる時期に、ロシア側は、オバマ大統領がシリア問題の解決策を模索する過程を冷ややかに見つめればよいわけだ。プーチン大統領は密かにほくそえんでいるかもしれない。仮に、同盟軍が軍事介入とでもなれば、「イラク戦争の再現か」と非難声明を出して、米国に外交圧力をかける口実ともなる。
なお、オバマ大統領がシリア軍事介入につき議会に承認を求めたことで、最もショックを受けている国がイスラエル。シリア国内での化学兵器使用というレッドラインを越えた事態への米国の対応が後手に回れば、イランが核兵器開発というレッドラインを越えた場合はどうなるのか。イラン前大統領が「イスラエルを世界地図から抹消する」との問題発言で挑発した記憶は、イランが穏健派大統領を選出した今でも、イスラエルには強く残る。オバマ大統領が今年3月にエルサレムを訪問した際には「あなたがたは孤独ではない。You are not alone.」と演説で語った。しかし、今のイスラエル国民は、米国の支援もアテにならぬとの孤独感を感じているのだ。
結局、シリア問題で「漁夫の利」を得る国があるとすれば、ロシアとイランということになろうか。シリアへの軍事介入が、中東地域及び米露関係に波及する可能性をはらむことで、市場への地政学的要因としてのインパクトは長引き、米国金融・財政問題にも影響を与える複合要因としても無視できない市場環境となりつつある。

さて、今日は大阪で仕事。夜は帰京して上野で日経主催のオペラ・スカラ座公演「ファルスタッフ」鑑賞。昨晩は、京都に前泊。行きつけの祇園「らく山」で、おやじさんが大雨の中、釣ってきたアユとか、大きなハモを焼いたり、しんじょにしたり、絶品の数々で満足。

1474a.jpg1474b.jpg1474c.jpg東京の事務所出るときより、京都のほうが6-7度は涼しかったな。珍しい現象だ。でもゲリラ豪雨で鴨川の水かさが増し、いつも渡る犬走りも堰みたいに水没してた。夏休みも終わって誰もいない南禅寺まで散歩。今日は、大阪で、タコ焼きだな。いつもの天王寺裏のディープな大阪の一角にある「山ちゃん」。どうも食い気ばかり先走って、肝心の仕事がどうなることやら(笑)。

2013年