豊島逸夫の手帖

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東京開催決定 IOCの本音

2013年9月10日

オリンピック東京開催決定の翌日(9日)の世界の反応をメディアや筆者のマーケット・ネットワークを通じて24時間フォローした。
その過程で、これが東京を選んだIOCの本音、あるいは選ばざるを得なかったIOCの本音か、と強く感じた発言が、IOCのマーケティング・ヘッドのコメントだ。
「2016年リオ大会は、地元スポンサー獲得が進まず、このままでは予定数未達となる」との警告である。リオ大会の準備遅れについてIOC委員たちから厳しい質問を浴びたときの発言であった。
更に、リオデジャネイロ・オリンピックの組織委員長レオ・グライナー氏も、地元スポンサーが不足すれば、政府から7億ドルの追加出資が必要とも述べている。おりから、ブラジルは新興国経済からのマネー流出に巻き込まれている。
2014年サッカー・ワールドカップのリオ大会と、スポンサーを取り合う結果にもなっているようだ。

このような議論が戦わされていたIOC総会で、東京が保有する約4000億円の基金は、頼もしい金額と映ったであろう。五輪商戦に乗り遅れまいとする多数の日本企業のスポンサー参加も見込まれる。

グローバル・マーケットを覆う「9月リスク」も東京選出には追い風になった。
トルコはシリアと900キロもの国境で接する。
スペインは18-24歳の若年失業率が57%に達し、「緊縮疲れ」の症状が顕著だ。9月22日の独総選挙を控えて、欧州債務不安再燃リスクも高まっている。

日本株式市場が気になる欧米市場の評価は分かれる。
日本の大手証券会社の前向きの「オリンピック効果レポート」が紹介され、アベノミクスの目指すデフレ脱却の動きを後押しするイベントとオーソドックスな見方が多い。
いっぽうで、テレビ映像に流れる日本国民歓喜の姿は、一般的に「フィーバー現象」には懐疑的になる欧米アナリストの見方を厳しくさせる。
オリンピックの経済効果といっても、世界第三位の経済大国のGDPのパイの中では微々たる金額、との論調も目立つ。オリンピックは少子高齢化、福島原発問題の解決にはならない。先進国中最悪の財政赤字を更に増やす結果となる、という米国カリスマ投資家のコメントも流れる。

ただ、ここだけは、欧米に伝わっていない、或いは、欧米人には理解できていない、と思われる点がひとつあった。
それは、オリンピック開催決定のニュースで、長期デフレ脱却に呻吟していた日本人のマインドが、どれほど勇気づけられ前向きになったか、ということだ。そして、日本人がロンドン・オリンピック団体競技で示した、ここ一番の団結力の強さ。この定量化できない現象は、単なるテレビニュース映像では伝わらない。日本人を理解し、東京の現地の空気を吸わねば実感が湧かない。
この部分が理解されれば、より多くの外国人投資家が日本株に賭けてみようか、という前向きの態度になるのではないか。

秀逸なプレゼンで五輪招致合戦に勝った日本。次は、欧米投資家への更なるプレゼンが必要だ。ライバルは、現在、欧米投資家の「次の一手」に必ず名前が真っ先にあがる、欧州株である。
プラス成長に転じたものの債務不安が残り未だ割安感のある欧州株と、少子高齢化で移民も拒む国ながら、アベノミクスとオリンピックという双発エンジンを備えた日本株の、マネー招致合戦に向けた準備活動を始める時期である。

なお、金価格は、先週金曜の雇用統計がまだら模様の数字で決め手とはならず。一応、事前予測より悪い数字ということで、量的緩和縮小観測後退→ドル安→金高で上がったけれど、1400ドル台回復までには至らず、足元ではジリジリと下がり始めたところ。
昨晩は、シリアへロシアが化学兵器廃棄を求めたというニュースで、有事の金は売り。中国の貿易統計で輸出が予想以上に伸び、東京市場もオリンピック・フィーバーで上昇ということを材料にNY株は上昇。
ドル円は、株高→円安と、冴えない雇用統計→ドル安・円高の狭間に揺れ、99円台の動き。

焦点の9月17,18日FOMCで量的緩和縮小開始が決まるか否かについては、現状では、いろいろあるけど、月額100億ドルずつ債券購入額を減らしてゆく案で決定という予測が多い。毎月850億ドルずつドル供給を増やしてきた、いわゆるQE3なのだが、その中で、100億ドルずつ段階的に縮小というのは、実質的には依然歴史的な金融緩和継続に等しい。引き締めへの転換時期のほうが問題だ。その転換を決定するためには、失業率が6.5%を下回ることとされるが、それを6%に下げれば、引き締め転換のハードルは高くなり、緩和継続の時期は延長される。フォワード・ガイダンスと呼ばれる政策だが、こういう「合わせ技」で、市場への影響を出来るだけ軽くしようとバーナンキさんも考えるかもね。

私は、その重要なFOMC開催の来週はNY証券取引所やNYMEX(商品取引所),そしてウオール街に出張です。現地でジム・ロジャーズと対談するのが楽しみ。現地から生の情報を送りますね。

2013年