豊島逸夫の手帖

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消費増税、これだけ違う金価格

2013年10月7日

消費増税が決まり、投資家の現物金売買が動き始めた。 消費税は購入時の「小売価格」のみならず、売却時の「買取価格」にも上乗せされるからだ。 小売価格を1グラム4000円とした場合の消費税込みの価格を一例として試算してみた。

小売価格 買取価格
税抜き 4000円 3920円
5% 4200 4116
8% 4320 4234
10% 4400 4312
15% 4600 4508
20% 4800 4704


このケース・スタディーで消費税15%、20%まで入れたのは、現物の金を子供や孫への「資産継承」として長期保有を前提に購入する投資家層が増えているからだ。
特に不動産と比較すると金は3つの優位性を持つ。

1) 金には固定資産税がかからない
2) 小分けできるので、相続をめぐるもめごとが起きにくい。具体的には一枚15万円程度の金貨をまとめ買いするシニア層がいる。
3) 金には、当日の金価格で即、売却できるという流動性がある。


このような理由で「資産継承」の手段として現物金を購入する立場になると、10-20年後の消費税が欧州並みに上がっているケースも考慮するわけだ。
上の試算表で、消費税5%のときに4200円で購入した金が、4704円で売却できると考えると、その差は大きい。

ただし、金価格は変動するので、価格下落リスクがある。更に、売値と買値の差(スプレッド)もある。
従って、消費税5%のうちに駆け込みで購入して、8%に上がったときに売却して儲けようなどという発想は、安易に過ぎる。せいぜい、手数料がチャラになる程度に考えるべきであろう。

金価格動向も、2014年にかけては、米国の「緩和縮小」から「引き締め」への金融政策の流れの中で、国際金価格の上値は重いと予想する。但し、円安が進行すれば、国内金価格は「下げにくく、上げやすい」状況にはなろう。
2020年の東京オリンピックまでの長期に目を転じると、「引き締め」に転換するほどに米国経済が回復すれば、年間金生産量の7割近くを現在でも買い占める中国・インドが、更に金購入を加速させよう。一方、サプライ・サイドを見れば、過去10年間に金価格は500%以上上昇したのに、金年間生産量は10%程度しか増えていない。明らかに「資源の壁」に突き当たっている。リサイクルという二次的供給源が変動要因となるが、将来の需給逼迫は避けられない。従って、長期で見れば、金価格上昇を予想する。
下値のベンチマークは世界平均生産コストの1211ドル。足元の金価格は1300ドル台である。

結論としては、消費増税を当て込んだ短期金売買は薦められないが、「継承資産」あるいは「自分年金」の一部としての現物金購入は、個人投資家の「消費増税ヘッジ」としての効果はあると思う。
なお、利息や配当を生まない金は、「不毛の資産」ゆえ、保有理由は、あくまで「資産価値の保全」にある。株を攻めの資産とすれば、金は守りの資産。アベノミクスの成功を信じてまずは日本株を購入し、失敗したときの備えとして、全資産の10%程度を金で長期保有しておくことが「全天候型ポートフォリオ」としては望ましい。資産運用の主役はあくまで株や債券。金は脇役である。

さて、週末は前GFMS CEOのポール・ウォーカーが来日したので付き合った。今は南ア、ケープタウンの鯨の群れが見える家で生活。独立して、プラチナ関連の仕事を主にしている。
今週は、日本で講演とか、私とのパネル・ディスカッション(日経掲載用)をやるスケジュール。
まだリタイアには早い年齢だけど、まずは人生を奔放に楽しみ、自由に生きている。あのライフスタイルには共感すること多い。
貴金属についても、私同様に、組織を離れて、自由に言いたいことを発言している。やっぱり組織の看板を背負うと制約も多く、会社の方針に拘束される。彼も、日本はxx証券とかxx銀行の肩書優先で、話がつまらない、と語っていた。独立系の二人で、がちんこ本音で話し合うと、新たな刺激を受けるよ。明日の対談も、編集者が取扱いに困るような発言が相次ぎそう(笑)。

2013年