豊島逸夫の手帖

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12月緩和縮小に身構える金市場

2013年12月3日

金価格の下落が止まらない。
感謝祭休暇明けの2日も、ニューヨーク市場では2.5%下がり、1210ドル台まで急落した。心理的節目である1200ドルの大台にも接近してきた。
下げの要因は、12月FOMCでの緩和縮小決定説に尽きる。
金利を産まない金は、他のアセットクラスに比し、金利(特に実質金利)の動きに敏感だ。量的緩和縮小が開始そして終了した後に控えるのは「利上げ」という「引き締めへの転換」である。イエレンFRBでは、その転換条件である失業率のハードルが高まり、引き締めへの転換は2016年以降という観測もある。しかし、金市場は水平線上に「利上げ」の可能性が視野に入るだけで、神経質に反応するのだ。「ゼロ金利」だからこそ買われてきたわけで、「利上げ」という言葉は天敵扱いである。更に、緩和縮小=ドル高要因なので、ドルの代替通貨としての金の出番も減る。主要先進国のディスインフレ傾向は実質金利上昇要因でもある。
このような市場環境で、昨日も、米国供給管理協会(ISM)が発表した製造業景気指数が57.3と2年半ぶりの高水準をつけるや、緩和縮小12月開始説が強く意識され、金価格の下げに拍車がかかった。

今週最大のイベントである11月の米雇用統計についても、金市場は良い数字が緩和縮小開始を促す可能性を恐れている。
但し、非農業部門新規雇用者数は毎月の振れが大きい。今回は事前予測で18万人前後増加と見込まれているが、単月ではなく平均値で見るべきであろう。
そこで、10月までの平均値で見ると、3ケ月平均が20万2000人、6ケ月平均が17万4000人、12カ月平均が19万4000人となっている。
改善傾向は顕著だ。しかし、11月の数字が仮に18万人とすれば、20万人の大台そして12ケ月平均をも下回ることになる。決して良い数字とはいえない。
更に、米政府機関閉鎖の影響も残る月ゆえ、統計数字そのものの信憑性も疑わしい面が否定できない。少なくとも、FRBが量的緩和縮小という金融政策大転換を決定する根拠としては、説得力に欠けるのではないか。
従って、筆者は緩和縮小開始3月説を維持している。

金価格については、目先1200ドル割れの局面もあろうが、投機筋の「量的緩和縮小の噂で売り、ニュースで買う」仕掛けも多いので、カラ売りの買戻しが下支え要因になりそうだ。特にクリスマス休暇を控え、ファンドがカラ売りポジションを長くキャリーする(持ち続ける)時期ではない。ここまで下がると、いかに経済成長減速中とはいえ、文化的金選好度が強い中国・インドの買いも活発になっている。
金価格の本当の下げはイエレンFRBがフォワード・ガイダンスで利上げ時期を明示する時に来るだろう。引き締めへの転換は2015-2016年以降と見られるが、まだ先の話といっても、金利を産まない金にはショック効果が強く働くのだ。そこで、もう一段の下げによる1100ドル割れが考えられる。しかし、金の世界平均生産トータルコストは1211ドルなので、1100ドルまで下がると、金鉱山の減産・閉山が増え、中国・インドでは現地価格が大幅なプレミアムになるほど現物買いが殺到するので需給は締まる。ここが、株の値動きと決定的に異なる点で、「底なし」のリスクは極めて小さい。

なお、国内金価格は円安効果で、「下げにくく上げやすい」地合いだ。ニューヨーク市場の下げも為替要因でかなり相殺されている。円高でニューヨーク金が上がっても東京金は下がる時代が長く続いていたので、ベテランほど、この円高トラウマの呪縛から抜け切れないでいる。しかし、今や、従来の「市況の法則」が続かない時代だ。頭の中のハードディスクを一旦「消去」して、相場に臨む必要性があろう。
ドルやリスク許容度との連関がぶれる局面も最近は頻繁におこる。
10月の米国財政危機の時には金が「安全資産」として買われずリスクオフで売られた。更に、短期的には、為替が円高・ドル安に振れ、ドル建て金価格も下がるという、従来の「市況の法則」に反する局面も見られる。
プロのトレーダーの視点では、こういうmisprice(価格の歪み)が生じた時を短期的な買いの機会と見る。
逆に、円安・ドル高・海外金高というmisprice現象も時折生じる。このケースでは円建て金価格が国際的に割高になるので、売りのタイミングとなる。

総じて、金を長期的にリスク分散として現物で保有するのか、短期的なトレードでリターンを狙うのか、目的を明確にしたうえで臨む必要があるのだ。
筆者のアドバイスは、いつものように、プロのマネなどせず、長期コツコツ貯めなさい、ということ。
私は現水準で買いを再開です。

2013年