豊島逸夫の手帖

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卒、緩和縮小へ、雇用統計後の株、金上昇

2013年12月9日

6日欧米市場の最大のサプライズは、「緩和縮小の呪縛から解放されたかの如くNY株が上昇した」「良いニュースが良いニュースと素直に受け止められた」ということだ。
5日付け日経コラム「続くか量的緩和の宴、試される投資家の忍耐力」にこう書いた。

-----引用-----
良い経済指標が出ると「12月に量的緩和の縮小開始」説が強まり、債券も株式も売られる。「良いニュースは悪いニュース」といういびつな市場の反応がすっかり定着してしまった。
逆に「悪いニュースは良いニュース」となり、株価を押し上げる。しかし、これは市場が米国経済の本格的回復に自信が持てず「QE依存症」から抜け切れないためだ。
「良いニュースは良いニュース」という本来の市場の反応が戻ったときに、「資産インフレ」のレッテルを貼られない持続的な株価上昇が見込める
-----引用終わり-----

今回、良い雇用統計により米国株価が上昇したことは、まさに「資産インフレ」のレッテルを貼られない持続的な株価上昇が見込める兆しと見たい。
債券市場も、「いよいよFRBの債券買い取りプログラム縮小の可能性が高まる」と見方にも動じず、10年債利回りは2.85%台と著変なかった。
ここにも「卒・緩和縮小」現象が顕著である。
雇用統計のデータを分析すると、良い数字とはいえ、FRBに対して12月にも緩和縮小の政策大転換を促すほど衝撃的な改善とは言い難い。
非農業部門新規雇用者数は毎月の振れが大きいので、10月までの平均値で見れば、3カ月平均で20万2000人。6カ月平均で17万4000人。12月平均で19万4000人である。
そこに11月は20万3000人。
至極妥当な数字だが、マーケットを揺さぶるほどのマグニチュードはない。
失業率7.0%は、いよいよ次は6%台か、と希望を持たせるほどに良い数字だ。但し、労働参加率が幾分改善したものの、総じて、失業者の求職活動停止や団塊の世代の引退などの構造的要因によるところは引き続き大きい。まだ、素直には喜べない。
今回の雇用統計の総合評価は100点中、70点程度であろうか。
従って、劇的に良いニュースではないので、劇的に悪いニュースにもならない、ともいえる。

俯瞰すれば、(ここが最も大事な点だが)、市場のテーマはもはや語り尽くされ陳腐化した「緩和縮小」を卒業し、「利上げ時期」にシフトしている。
イエレノミクスの試練は、短期金利を低水準に抑え景気を下支えして、長期金利は3%程度で落ち着かせることでバブル発生を阻止するという微妙な政策舵取りにある。
景気本格回復が確認されるまで歴史的低金利を続ける。そして回復確認後、直ちにインフレ期待を抑制すべく債券市場に働きかけ長期金利安定を期す。とはいえ、言うは易し、行うは難し。こんな神業が出来るはずもない。

そこで、ドル長短金利がFRBの目標から乖離するたびに、株価もオーバーシュート、アンダーシュートを繰り返すだろう。
その過程で、今後、相場を見る勘所は「イールド・カーブ」と「フォワード・ガイダンス」となろう。
2014年は、ハト派のイエレン次期FRB議長と、タカ派が増える新FOMC投票権メンバーとの議論を記したFOMC議事録やFOMC声明文そしてFOMC直後のイエレン記者会見発言の「英文解釈」でマーケットは動く。特に、フォワード・ガイダンスで、利上げ時期の目途を失業率6.5%から6%にまで下げて、利上げへのハードルを高める、とのメッセージを市場にコミュニケート(伝達)すれば、マーケットは2015年或いは2016年まで利上げなし、と読むだろう。その間は「緩和縮小そして終了」なれど「金融引き締め」ではない。リスクマネーは、「執行猶予2年から3年」という判決と受けとめる。その間は、リスク管理やコンプライアンスの制約はあるが、抑制されたリスクオンの動きは出来る。

そこで注目されるのが円キャリートレード。
6日の外為市場はドル・インデックスを見るかぎり、雇用統計発表後、80.26と若干ではあるがドル安に振れている。これはユーロ高に引っ張られたドル安との印象が強い。
しかし、円だけは、雇用統計直後、102.20から102.90まで円安・ドル高となった。
ここまで突出して低金利通貨=円の先安観が強いと、低金利通貨を調達して、商品や高金利通貨などのリスク資産で運用するキャリートレードの「調達通貨」としては円が選択されやすい市場環境だ。

その調達通貨=円で金が買われる兆しも6日に見られた。
雇用統計発表後に金は、「市況の法則」どおりに縮小緩和懸念で売られるかと思えば、逆に買われ価格が上昇したからだ。
雇用統計発表前後には「市況の法則」どおりに1230ドル台から1210ドル台へ急落したものの、その後30分ほどで再び1230ドル台まで急騰したのだ。
この異常現象はウォール街でも話題になるほどで、市場関係者は「不可解な動き」と頭を捻った。
クリスマス前の流動性が少ない時期にありがちな「おかしな値動き」とはいえ、金も「卒、緩和縮小」とみたファンドが、円キャリーで金の安値を高速度取引で拾った(買った)とも考えられる。
外為市場では円キャリーで買われる通貨としてメキシコ・ペソやニュージーランド・ドル(俗称キーウィ―)などの名が挙がっている。
緩和縮小懸念で売られた新興国通貨は、まだ「卒、緩和縮小」とまでは言い切れないが、「イエレンのハト派的議会証言」以来、「急ぎ働き」の「イエレン買い」が見られる。

但し、俯瞰すれば、新興国側で緩和マネー流入の恩恵を構造改革に廻さなかった咎が、マネー流出の段になって露呈している。
新興国通貨に関していえば、今、買っているプレーヤーはファンドと年金基金の一部。後者では、新興国通貨全盛期に運用委員会でアロケーションを決めた年金が、やっと実行に移し始めた時には、既に下がっていたが決定どおり粛々と買い始めた、という例が多い。
長期的には新興国通貨を安値の今のうちに仕込んでおくことは、結果オーライになるかもしれない。

今日は京都で講演。御用繁多で夜の祇園をスキップせざるを得なくなって、モチベーション低下(笑)。
とんぼ返りで、往復車中にて経済誌原稿〆切2本あげねば。。。先週から、米国経済、欧州経済、新興国経済、世界経済、商品市場、為替、金と7本あげたので書くモメンタムは全開。今週が年末進行の〆切ピークなので、来週に、また京都に来るさ。恒例南座の顔見世見の切符は入手できたから。さむーい京都であつーいマル(スッポン鍋)がこたえられないな。
それが終わるといよいよガーラ湯沢スキーオープン!金価格よりガーラ積雪量のほうが気になる季節(笑)。

2013年