豊島逸夫の手帖

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米は良い金利上昇、中国は悪い金利上昇

2013年12月25日


24日の米国市場では、10年債の利回りが2.98%と3%の大台へ接近。2年債利回りも0.40%まで上昇してきた。

19日付け日経コラム「量的緩和縮小で安堵、円安・株高加速へ」の執筆時点では、それぞれ、2.89%、0.33%であったから、ドル金利は「じり高」傾向といえる。

24日には、「米耐久財受注、11月3.5%増で市場予測上回る」との材料が債券買いのキッカケとなった。

この10年債利回り上昇が緩やかなペースで3%台越えであれば、緩和縮小決定後も続く米国経済改善傾向を映す「良い金利高」とされよう。

但し、これが「急騰」して3%前半に突入、4%も視野に、という展開になると、「悪い金利上昇」という懸念材料に化す可能性を孕む。米国債最大の買い手であるFRBが買い取り量を縮小することで、国債需給悪化が不安視され、株価下落の引き金をひきかねない。

「悪い金利高」が回避できるか否かは、ひたすらイエレン次期FRB議長の金融政策舵取りと市場の評価による。

2014年の市場を読む勘所の一つだ。


一方、中国の短期金利(1週間物金利)は23日に8%台にまで急騰後、24日に6%台にまで急落。こちらは、中国人民銀行の資金供給姿勢に不安感が強まっている結果としての、短期金利乱高下であり、「悪い」現象である。

単なる年末資金需給逼迫だけでは片づけられないので根が深い。

習近平指導部が推進する「金融制度改革」、特に「金利自由化」に向けての、中国流「壮大な実験」の過程にあるからだ。

これまでの、人民銀行による金利水準設定、貸出量的規制などから脱し、「市場原理」による金利決定を目指す過渡期に生じた現象なのだ。

中国人民銀行も、現場では「市場規制」から「市場との対話」への移行に慣れていない。そもそも、ベンチマークとなる「政策金利」も存在しないのだ。

「政策金利」による「伝統的金融政策」に不慣れな中央銀行が市場原理導入を指導部から迫られている。


いっぽう、民間から見れば、今回波乱が生じている銀行間資金取引市場は、中国人民銀行による銀行貸出規制の「抜け穴」ともなっていた。

ここを「市場原理」に任せ放置すれば、過剰流動性によるバブル醸成を招きかねない。銀行の不良債権増が経済成長を妨げる結果となる。

かといって引き締めのための「市場管理」姿勢を強めると、不安感から金利は乱高下する。

ソフト・ランディング(軟着陸)出来るか否かは、米国同様に、中央銀行の金融政策舵取りにかかっている。


俯瞰すれば、時折生じる中国の短期金利乱高下現象は、「金利自由化」へ向けての「産みの苦しみ」とも解釈できよう。

「変革の痛み」に耐えてこそ、長期的には中国の真の金融改革が前進するのだ。


なお、これまで、市場ではDon't fight FED(FRBには逆らうな)と言われてきた。

しかし、2014年は、黒田日銀、ドラギECBも含め、「中央銀行のお手並み拝見」のスタンスとなりそうだ。

なお、「通貨の番人」といわれる中央銀行に対する市場の「信任投票」は、代替通貨である「金」を売ることだ。その金価格が1200ドル台まで急落している現象に、中央銀行家たちは安堵していると思われる。

しかし、中央銀行が「経済成長」と「物価安定」のいわゆるdual mandateの二つの政策目標を同時に達成することは、古今東西至難の業。市場が「金買い」で、中央銀行へ不信任投票をつきつける日がいずれ来るだろう。

2013年