豊島逸夫の手帖

Page1574 金価格操作疑惑の真相

2014年2月25日


「ドイツ銀、金値決めから撤退」との記事が本日商品面に出ている。
ロンドン金市場では、日に二回午前10時半と午後3時に「ロンドン・フィックス=建値」と呼ばれる「値決め」が1919年から続いている。マーチャント・ バンクの代表格ロスチャイルドの内部の「黄金の間」に値決め参加5社の代表が午前午後2回集まり、ロスチャイルドの代表者が議長役となり、まず値決めの初 値を直前のザラ場での価格を元に5社に提示する。その気配値を5社が世界中の顧客に伝え、売買注文を集める。中東・アジアの実需家・南アの金鉱山会社など からの現物売買注文が、「黄金の間」で集計され、売りが多ければ、初値から下げた水準で再び気配値が提示される。(買いが多ければ、気配値は上がる)。こ のプロセスを繰り返し、最終的に売買量が同じになったところで、ロスチャイルドの代表者が「フィックス」と告げ、その回の建値が決まる。


このロンドン建値は、最も指標性が高い金価格として、長期契約の値決めの際のベンチマークとして使われてきた。中央銀行など大手参加者がトン単位で金を購入する場合には、大量の現物を一本値で決めることができる唯一の場として使われてきた。
日本では時差の関係からNY先物終値がベンチマークとして引用されることが多いが、世界ではロンドン価格が長期トレンドを決める価格としてウォッチされて いる。先物売買で買われた金はほどなく売り手仕舞われるのでゼロサム・ゲームだが、文化的金選好度が高い中国・インドの現物購入は長期保有で買いっぱなし なので、買い残高が蓄積してゆくからだ。その現物の生産者と需要家・投資家を結ぶ中継基地は、依然圧倒的にロンドン市場である。NY先物はレバレッジがか かっているので、短期価格トレンド形成には圧倒的な価格支配力を持つ。しかし、史上最高値、大底などで長期トレンドの転換を決めるのは、ジワリ、ボディー ブローのように効くロンドン現物売買なのだ。
ロンドン値決め参加社は市場の変遷とともに、マーチャント・バンクから大手銀行にシフトした。ギルド的印象の強い黄金の間での値決めは廃止された。


しかし、その間も変わらなかったのは、監督するイングランド銀行とロンドン市場参加社との「紳士協定」に基づく信頼関係だ。参加社は売買件数などの 情報をイングランド銀行に開示する。イングランド銀行は価格形成に特段の規制はかけず、金庫を金塊保管用に提供するなど、ロンドン市場のスムーズな運営の ために協力する。リーマンショックのような経済危機が市場を襲えば、官民、紳士的に対話しつつ、共同で乗り越える。
しかし、米国発のドッド・フランク法(金融改革法)の規制の波は、大西洋を渡り、ロンドン市場も直撃した。
大手投資銀行の内部リスク管理は厳格化の一途。特に、どこまでが自己勘定売買で、どこからが顧客の売買に応じたヘッジ取引なのかの線引きを明確化せよ、と なると、高頻度取引が市場を席巻する現在では、現場感覚でほぼ不可能に近い。ドッド・フランク法は、ひとつひとつの売買取引に、その正当性を示す記録を残 せ、と迫る。これをまともに実行すれば、バックオフィスは忽ちパンクするは必定。
しかも、LIBOR価格操作の煽りで、金価格まで疑いの目を向けられる。現場を経験している者であれば、各行が推定する金利水準を自己申告して、取引の裏 付けのない理論値を決めるLIBORと、イングランド銀行監督下のもとで、現物の所有権が実際に移転する売買により決まるロンドン建値とは、まったく異な る。ロンドン金市場内には「とばっちり」との声が強い。


しかし、現在の金融機関では、行内コンプライアンス強化が加速度的に進行し、レピュテーション(風評)リスクを極度に嫌う。「疑われた」という事実のみで、「業務縮小」の決定がなされる。
これは、金業務に限ったことではない。株、債券、外為、全ての部門に共通した傾向である。
性悪説に立てば、規制にきりがない。規制は市場内流動性を減らし、プログラム・トレーディングが価格形成を主導する状況を助長する結果となる。
そもそも原油・穀物などの価格が投機的売買に晒され、最終ユーザーが価格変動の悪影響を受ける、という状況を受け、規制が強まった。
しかし、その規制が、市場での売買の縮小化を招き、最終ユーザーが更なる価格変動リスクに翻弄される事態になりつつある。
ここはデリバティブの原点に帰るべきだ。
そもそも先物は種蒔きする農家が収穫時の売却価格を先決めすることで経営の安定化を図るというニーズから生じ、その農家のヘッジ売りに買い向かう「プロの投機家」による自己勘定売買が、市場の潤滑剤である流動性を形成していった。
オプション売買は、素人の個人が負担しきれない価格変動リスクを、プロが代わって引き受けることで、投資家の市場参加の負担を和らげるための商品で、これがそもそもデリバティブの原点であった。
それぞれに、実需のヘッジ、リスクマネーの活性化という重要な役割を期待され誕生したのだ。
先ずは投機、規制ありきではなく、実需家・投資家保護の原点に戻り、新たな市場形成を図るべきだ。売買の透明性と市場の流動性のバランスを考慮した規制が望まれる。
このままでは、世界経済の縮小均衡化を招く一因ともなりかねないリスクを孕むとの警鐘を鳴らしておきたい。


さて、くしくも、昨晩は、東京外国為替市場委員会という外為市場の行動規範などを議論する場に講師として招かれた。各金融機関の代表者が100名近く集まる。
私も、スイス銀行外国為替・貴金属部出身なので、同じ通貨の人間。たまたま人事異動で、「無国籍通貨=金」の担当になったことが、事の始まり(笑)であった。
だから、通貨目線で読む金という切り口は、自然体で話せる。
聴衆のディーラー諸氏も、意外に金の話を聞く機会がないとのことで、熱心に聞いてくれた。
さっそく、うちの銀行に来て、話してくれと頼まれた。私は、今や、それがミッションと思っているから、気楽に、難しいことはいわず、出向くことにしている。そこで、聴衆たちとQ&Aやることが、楽しくもある。
我ながら、オトナになったと思うよ(笑)。
次回は、今日かいた規制強化のトピックでも話すか。


講演後は、ムック編集室に戻り、深夜まで怒涛の追い込み。
さすがに、今朝は、目がショボショボだね。
こういうときには、生姜たっぷり擦って、花梨と蜂蜜と熱湯交ぜて、飲むことにしている。


明日は、テレビ東京の午後3時半からのL4プラスに出演します。明日、私の事務所でビデオ撮りして、それが編集され流されるみたい。
どうも、株の調子がおかしくなると、金の出番が増えるみたいです。

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