豊島逸夫の手帖

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ウクライナ情勢に ほくそえむ中国

2014年3月5日


ウクライナを巡る国際的緊張が、やや緩み、市場には安堵感が漂っている。とはいえ、「米ソ冷戦後、最大級の両国関係冷え込み」の状況は変わらない。
いっぽう、ソチのG8への準備会合への出席については、参加国の温度差が顕在化した。
特に、日本の外交姿勢は、両国首脳の親密度が強まってきた対ロ関係と、尖閣問題の渦中に隙間風が吹く対米関係の狭間に揺れている。
外交の優先順位が問われ、安倍首相が踏絵を踏まざるを得ない展開となった。「北方領土」か「尖閣諸島」か、領土問題の優先順位の透明性を迫られている。


ときあたかも、ニューヨークタイムズが所謂「慰安婦問題」に関して、日本に批判的な記事を掲載した。
安倍首相の靖国訪問以来、首相側近の問題発言など米国側を刺激する出来事が相次ぎ、「親日派」の米国人からも懸念が表明されている。
マネーの世界では、日本株のチャイナ・リスクにくわえ、ロシア・リスクがウォール街では語られ始めた。
この日米関係の軋みは、全人代を控えた中国にとって、思わぬ「朗報」であろう。


ここで中国側が尖閣諸島に「キャベツ作戦」を仕掛け、日米関係が揺さぶられた場合、どうなるか。(キャベツ作戦とは、尖閣海域にまず多数の漁船を送り込み、その監視の名目で、多くの監視船、更には、戦艦を派遣して、キャベツの層状のように囲い込むこと。)
しかも、中国人民銀行は、人民元急落を容認することで、円安政策を続ける日本と「通貨安競争」も辞さぬ構えだ。そもそもは、全人代を控え、輸出産業保護を印象付ける狙いと見られている。
ウクライナを巡る地政学的リスクで円高に振れた事例も、中国側から見れば、思わぬ「朗報」とされよう。
かくして、日中問題は、両国通貨を巻き込み、複合化現象が加速してきた。
なお、ロシアが南下政策の一環としてクリミア半島死守の姿勢を露わにしたことで、ここで北方領土問題において譲歩することは、国民の反感を買うことになろう。これはプーチン大統領とて無視できまい。


歴史は繰り返すというが、日本から遥か離れたクリミア半島での出来事が日本の歴史を変えてきた。
クリミア戦争で欧州列強とロシアが戦闘状態になったとき、長崎にいたロシア訪問団と日露和親条約が締結された。米国は、欧州の関心が対ロへ集中した時期に、このときとばかり、日本へペリー提督を派遣した。
第二次大戦時には、クリミア半島ヤルタでの会議で、ロシア対日参戦の条件として北方領土をロシアへ譲渡する密約(ヤルタ協定)が締結された。
日本にとって、因縁のある地域なのだ。
今回のウクライナ問題も、安倍首相の言動ひとつで、後世の歴史の教科書に名を残す出来事になりかねない、テール・リスクを孕む。


なお、有事の金は、やはり短命だった。
売られ1330ドル台に。
ウクライナから、徐々に、今週の目玉、米雇用統計へ臨戦モード。
こちらの問題のほうは市場の方向性を決める材料のひとつ。


さて、朝日新聞電子版にアプリ・ソムリエの石井寛子さんとの対談が載っています。その中で、中国の60億元紙幣と、その購買力が米一握りという写真が面白いですよ。(写真集の一番右にあります)。こういう経験しているから、中国人は紙幣より金を選好するのです。
http://www.asahi.com/and_M/living/TKY201402280150.html?iref=andM_rnavi_living


あるいは、「朝日新聞、石井寛子」で検索。

2014年